秋ヶ瀬公園の怪(埼玉県さいたま市) | コワイハナシ47

秋ヶ瀬公園の怪(埼玉県さいたま市)

埼玉県さいたま市桜区道場四ノ一七、旧浦和市時代の一九七一年に開園した埼玉県営の都市公園である。埼玉県公園緑地協会が運営、管理しており、管理センターは少し離れた場所に所在する。敷地は荒川沿いの羽根倉橋と秋ヶ瀬橋の間、南北約三キロ、荒川左岸堤内地内と鴨川右岸の間を東西に約一・五キロ。

埼玉の心霊スポット等という特集があると、畑トンネルと並んで名前があがる所であり、実際に事件が起き、記録されている、ある意味本物の事件現場と言っていい。

殺人事件、自殺があったとされ、水門に死体が流れ着いた、という陰惨な話が伝わる。散見される噂では、腐乱死体の女性が有名で、他には自殺者と見られる男性、声や影だけが付いてくるという物が多く、見た目の素っ気なさとは逆に、非常に強い怨念がある場所として知られている。前述の事件がそういった話の元になっているのだとは思うが、私が訪れた時も、明らかに行楽やスポーツでの来場では無さそうな、挙動不審な人がいて、心配になってしまった、という事があった。

私の後輩でHという男が居る。彼は車道楽で、常にあちこち弄っては、まだ若い奥さんとドライブに出かけるのが趣味だった。二○一一年の事、彼は愛車のスポーツカーを改修し、足慣らし代わりにドライブに出かけた。

ファストフード店で適当に食料を調達し、秋ヶ瀬公園の駐車場で一休みをしていたそうだ。

駐車場は時間によって出入りが出来なくなる。過去に色々あったからだろうか、一九時には閉まってしまう為、時間近くになると、一斉に車や自転車、バイクが出て行くのだが、Hはまだ食べ終わって無かった為、最後にゆっくり出ようと奥さんに声を掛けた。奥さんは外で写真等を撮っていたのだが、しばらくして車に逃げ込むように乗って来て、ドアを閉め、鍵を掛けた。

「ねぇ、あの人変じゃない?」

奥さんの言う方を見てみると、横にえらく長い駐車場の奥、人が歩いているのがシルエットで見えた。

「まだ残ってる人がいるんだろ。もう写真いいのか?」

「うん、早く帰ろうよ……」

何だか奥さんの元気が無いので、おかしいなと思いながら、パンを口に放り込み、車のキーを探していた時だ、奥さんがおかしな声をあげた。

「何だよそれ、バカみたいな声出し……」

奥さんが見つめている助手席の窓の外を、一緒になって覗き込んで言葉が止まった。

駐車場に沿うように川が流れていて、間には木の植え込みがあり、壁のようになっている。数メートルおきに駐車場と川沿いの小道を行き来する通路、というか植込みの無い切れ目があるのだが、そこから黒い人影がぞろぞろと出て来たのだという。

非常に広大な広さの公園で、歩きで出口に向かっていた人なのではないかと問い質したが、そんな事はないとHは力説した。理由を聞くと、そのシルエットは皆半透明というか、背後の植え込みや、他のシルエットすら透けて見えていたのだという。

「ねぇ、おかしいよ、車出して早く、ねぇ!!」

奥さんが急かすので、アクセルを踏もうとした時、後部座席の窓ガラスを叩く音がした。まるで状況を分かってないような、軽い感じで、

「ココンッ、コンコンッ」

そんな叩き方だった。その気安さに、思わず反応して後部座席を見た。

窓の外に、髪の長い女が立っていて、窓ガラスを叩いているのだが、手首の先が無く、骨がむき出しになっており、その骨が窓ガラスに当たって音を立てている。

「おわっ!!」

Hが大声を出したので、奥さんも自然と見る事になり、

「ぎゃああああっ!!」

H以上の大声で叫び出す、大急ぎで車を発進させると、なんと駐車場には自分達しかいない。さっきまでトランクを開けて、バーべキューセットを積んでいた家族や、サイクリングバイクで荷物を背負っていた人達等は影も無くなっている。

振り返りもせず、一目散に公園を出て、大きな通りを選び、中古本屋やファミレスが並ぶ通りまで走ったという。

奥さんがパニックになって収まらないので、大きな電器量販店の駐車場に車を突っ込み、宥めようと思い、駐車場に入って適当な所に停めた。

さて今度は喚いている奥さんだ、と思ったら、どこからかクラクションが鳴っているのが聞こえた。うるさいなと思っていると、少し離れた車から男性が出て来て、こっちに走って来る。

何だ何だと思っていると、運転席のHの所より先に、車の後ろに回ってしゃがんだり、覗き込んだりしている。

Hもびっくりして車を降り、何かありましたか? と聞いた。

「あの、あれ? えっと……おたくの車がね、黒い煙吹いて駐車場に入って来たから……今にも爆発でもするんじゃないかって、びっくりして……でも何ともないね……」

その人は狐に抓まれたような顔で戻って行ったという。

Hは車に戻ると、目を見開いて固まっている奥さんを揺り動かし、正気に戻す作業に取り掛かった。その間もずっと後部座席の方を気にしながら、何が付いて来たんだと不安だったそうだ。

「先輩、あそこは行かない方がいいですよ、昼間は人も多いし、緑が多い、いい所ですけど、夜になるとガラッと雰囲気変わりますよ。特に、駐車場とその傍の川がヤバいですね。事件があったというのは聞いてましたけど、あそこまでとは思わなかったですよ、うちら夫婦揃って、そういう感は全くないですからね……何で見たのか……」

折角の忠告だったが、こちらはそれが仕事になってしまっているので、それを聞いたら行かない訳にはいかない。早速行ってみたが、確かに夜になり、人が少なくなると雰囲気が変わる場所だと思った。

Hのようなハッキリとした怪異には出合わなかったが、問題の小川の小道を端から端まで歩いていた時の事、しきりに後ろから枝や小石を踏みしめる音がして、付いて来られている、という強い感覚があった。また、植込みを挟んで駐車場側を並行して歩いているような気配も常にして、複数の人がいるという感じも何となく理解出来た。それにも増して、私の少し後ろで、時折ボコンッ! と川から大きな音がした。それがずっと付いて来て、水門を越えたら無くなった。水辺の方が怖い、という印象の場所だ。

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