痴漢山の怪 二(埼玉県上尾市) | コワイハナシ47

痴漢山の怪 二(埼玉県上尾市)

二度目の探索・取材。

一九九二年六月に入る頃。私はある雑誌のアルバイトをしていた。やはり恐怖系の記事で、どこか面白そうな所を知らないか? と編集者に聞かれた。痴漢山の話をすると、興味を持ったらしく、取材をして来いとの指示が出た。要は、取材費を抑えられ、場所の名前がインパクトあるので、採用されたのだろう。編集部のカメラを借り、ある土曜日の午後、久しぶりに痴漢山を訪れた。

「つまり桜井君は、被害者かもしれない少女の、霊を見たのかもしれないって事だろう? そこが今どうなっているのか、調べるだけでも面白いじゃない。少なくとも痴漢がそこを拠点に、ターゲットの写真を集めていたのは事実なんだろう?」

編集者にそう問われ、私は記憶を蘇らせながら答えた。

「被害者かどうかは分からないですよ、写真があっただけなんで……ただYがその写真の子が林に入って行くのを絶対見た! と言うから、ちょっと、何ていうか心霊めいた話になっちゃったんであって……」

「いいよいいよ、轢かれた人の影があるトンネルとか、手形がつく電話ボックスより、余程怖いよ! そこで行こう! 取材宜しくね」

友人に車を出してもらい、カメラの準備をしながら、気の重い会話を思い出していた。

もう何年も経っているし、当時の小屋や写真でもあれば画になるが、当然無くなっているだろう。それでも、編集者の期待に応えようと、まずは頂上を目指し、ライトを点け進む。夜の為、視界が悪いが、殆ど小学生時と変わっていない様子で、円形に開けた頂上の周りの林を調べていく。が、特に変わった物も無く、当たり前だがノコの木も無くなっており、小屋も見つけられない。がっかりしながら車に戻ると、友人の姿が無い。彼も同年代で同じ通学路を通っていたので、痴漢当番という制度も知っているし、当時の事件も知っている。興味をそそられたのか、協力してくれようとしているのか、周囲を探し回っているらしい。私も再び周囲を調べ始めると、通学路の一本奥の道から、友人が振り返り振り返り戻って来た。

「おう、どこ行ってたんだよ? 俺頂上行ってきたよ。ノコの木はもう無かったなぁ」

「お前それ所じゃないよ、ここやばいよ! 車乗れ、早く!」

友人に急かされ、座席に滑り込み、事情を聞く。ライトを落とし、CDも止め、声を潜めて、彼はゆっくり話し始めた。

「お前が頂上行くっていうから、俺は周りを一周してこようと思ったんだよ。それで、一本奥の道を、ライト持って歩いてたら、車が来るんだ。お前も知ってるだろうけど、この道なんて、殆ど通る人居ないだろ? すぐ近くに広い道あるし、元々ここら、家無いしなぁ。で、珍しいと思って端に避けてさ、すれ違ったんだけど……」

「何かあったか? どんな奴が乗ってた?」

「ああ、俺の手前でスピード落とすから、何か用でもあるのかと思ったんだけど、窓も開けないし、クラクションを鳴らすでもないんだ。ただ、こっちをじっと見てたな。乗ってたのは、五〇歳位の男だよ。小太りな感じだったな。で、助手席の後ろに、女の子。こっちは小学生位。なんか気持ち悪くてさ、思わずこっちも睨んじゃったけど、向こうも視線は外さなくてさ、そのまま通り過ぎたんだけど……」

「おい、それ痴漢じゃないのか!? 写真撮ったか? 車の色は? なぁ!」

焦って聞き出そうとする私を、まぁまぁというような手つきで宥めて、友人は続ける。

「通り過ぎても、しばらくゆっくり徐行してて、こっちをミラーで見てたんだよ。俺もおかしいなと思って、ライトでナンバー確認しようとしてよく見たら、女の子居ないんだよな……俺の見間違いって事はないよ、顔も服もきちんと覚えてるもん、白い服でさ、髪はセミロングの……あ!?」

友人にも、小学生時の怪体験は前もって説明してあった。それだからこそ、同じ通学路を通っていた彼に同行を頼んだのだ。自分で言っていて、当時の少女と同じような女の子を見たという事に気付いたらしく、今度は私が何も言っていないのに、弁解を始めた。

「でもほら、白い服なんて一番よくある物だし、セミロングだって特別って……」

「ルックス云々じゃなくて、居なくなってた方が問題だよ。運転手が痴漢か、たまたま通りかかった近くの人が、夜にうろついてるから不審に思って見てたのか、それは分からないけど、後ろの席に居る筈の子が居なくなったのは、完全に怪現象だろ?」

しかし、その後は車も通らず、何も起きないまま、数時間を痴漢山で過ごし、何となく釈然としない気持ちのまま、帰宅したのだった。

二回に渡り、共通したのは白い服のセミロング程度の髪形をした少女が、現れて消えるという事。当時の同級生、及び痴漢当番に出た事のある親御さんに電話等で取材し、その頃の事を聞いていくと、僅かながら新しい情報が手に入った。

実際、かなりの数の被害に遭った生徒がいた事。うち二人が、事件後引っ越しをした事。その引っ越した生徒のみ、事件の詳細が学校側からも説明が無かった事。引っ越した二人は女子生徒だった事。しばらく後、通学路が変更になり、当番も無くなった事。犯人の目撃は乗用車の場合が多く、白色の車が不自然に往復したり、長時間停車したりしていたので、当番の方が近付くと逃げるように発車したという事が何度もあった事。

被害者の容姿についてまでは直接知っている方が居なかったが、私的には二度の体験と、この電話での情報で、ある程度全体の骨子が見えてきたような感覚があった。

この山は痴漢行為をしようという異常者と、その対象となった者、それらの感情を浴び続け、一種異様な苗床になってしまったのだと思う。異常者を惹き付け、被害者の恐怖を蓄積し、小さな霊場然とした場所に様変わりし、怪現象が起きるような事になってしまったのではないかと推測した。

そうした中で、シンボル的に現れる白い少女。痴漢行為後、どうなったかは分からないが、強烈な思念を残していったのは想像に難くない。

もしかしたら、痴漢を呼び寄せ、発見させる為に現れているのかもしれない、と思う程、この場所にだけ現れ続けていた。それは執念とも言える行動だ。

彼女が一緒に居たり、乗っていた車の者は、全てが怪しい奴なのかもしれない。それでなくて、何故いつまでも現れ続ける必要があるだろうか? 誰かに答えを教えるまで、彼女は救われる事が無いのではないかと思う。

どちらにしても、私はこれでより深く関わってしまった。そのツケは三度目の取材で払う事になるが、この時は知る由も無かった。

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痴漢山の怪 その三(埼玉県上尾市)

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