天神様の怪(埼玉県上尾市) | コワイハナシ47

天神様の怪(埼玉県上尾市)

埼玉県上尾市藤波、天神氷川八幡合社。

現在も健在だが、私の祖母の家と一本道を挟んだ所に、天神社があった。

菅原道真を祀り、勉学の神様だと教えられていた。本堂と社務所、小さな遊具のあるスペースというコンパクトな神社だった。

小学校時代には、社会の教科書に年中行事の「ささら獅子舞」が市指定無形文化財として掲載されているなど、藤波地区の子供達にとっては有名な所であり、格好の遊び場所だった。

今ではそうした光景も形を変えてしまったのかもしれないが、私の子供の頃は、上級生が下級生の面倒を見るのは当たり前で、それが女子であっても、下級生の男の子が困っていれば、よく世話をしていたものだった。

そうした面倒見の良いお姉さん的存在に、小学五年生のIさんがいた。

ゆっくり話し、優しい性格で、小学校三年生の当時の私には、とても大人に見えたし、算数が得意で、鳥が好きという、綺麗な目をした少女だった。

そんなIさんに、三年生の私は、生意気にも天神様(子供達は天神社をこう呼んでいた)で出会うと、近所の雑貨屋で買った駄菓子をプレゼントのつもりで渡していた。

そのIさんが、ある日を境に天神様に来なくなってしまった。

通学路で見かけた時、私はその理由を聞いた事があるのだが、Iさんが話してくれたその内容は、とても不思議な話だった。

友達と日記交換がてら、おしゃべりしようと約束し、家に帰り荷物を置くや、自転車で天神様に向かった。その日は曇天で今にも雨が降りそうな空ではあったが、大事な相談事があるという事なので急いで向かったという。

天神様に到着したが、早く来過ぎたようで、友達の姿はまだ見えない。

社務所の軒先で待っていると、とうとうパラパラと雨が降り出してきた。春先の雨だったので、特に肌寒いという事も無かった筈だが、何となく落ち着かずにいると、ふと、目の端に入った物がある。

天神様の敷地内には鉄棒とブランコがあるのだが、そのブランコに、いつの間に来たものか、一人の少年が乗っている。この時代、男の子は少しの雨位では傘どころか、雨よけもせずに平気で遊んでいたものだが、見た所一年生か二年生位の、かなり低学年に見えたので、Iさんは声を掛けたという。

「ねぇ、君! 雨だから、こっち来て雨宿りしなさい! 風邪ひくよ!」

楽しそうにブランコを揺らしていた少年は、Iさんの声に気付き、勢いを殺して、やがてブランコを止めた。

「そしたらね、その子、凄い速さでこっち走ってきたの! びっくりする位速く!」

社務所と遊具のスペースは、約三メートル弱の出入口の道を挟みざっと二〇メートル程度離れているのだが、Iさんによると、三回位跳ねるように動いたかと思うと、もう目の前に来ていたという。

見た事のない子だった。それに下着のようなランニングシャツと、色あせたベージュの半ズボンという格好。坊ちゃん刈りというか、ビートルズのようなマッシュルームカットというか、特徴的な髪形で、とても色白だったという。目は大きくぱっちりしていたそうだが、手足は細く、心配になる位痩せていた。

「ここら辺の子じゃないでしょ? どっから来たの? 名前は?」

「お姉ちゃん、髪長くていいなぁ……ちょうだい?」

「そうじゃなくて、帰れなくなったんだったら家の人に連絡してあげるから!」

「きれいなバッグでいいなぁ……ちょうだい?」

「ちゃんと聞いて? 名前は? どこから来たの?」

「お姉ちゃん、目が大きくていいなぁ……ちょうだい?」

Iさんはその時はっとした。少年の指に爪が無い。

白い肉の棒のような、五本の指でIさんの持っている手提げバッグや、服を触ってくるのだが、その指先に爪が無く、ぞっとしたが凍り付いたように動けなかったという。

「お姉ちゃん、声可愛くていいなぁ……ちょうだい?」

「お姉ちゃん……友達を待ってるから……そんで、あ、遊んであげられない……」

「お姉ちゃん、遊んでくれないの?……」

「遊ばない……」

「じゃあ、帰るからみたまくれない?」

「遊ばない……絶対、遊ばない……」

「帰るから、みたまくれない?」

「いや! 遊ばない! 帰って! 嫌い!」

「じゃこれ、もーらった!」

「……痛いッ!!」

Iさんは途中から怖くて目をつぶって怒鳴り返していたらしいのだが、いよいよ問答が差し迫ってくると、痛みを感じ、目を開けると少年は消えていた……。

はっと気が付くと、左手の小指の爪が無くなっており、血が流れていたという。友達がやって来て驚き、すぐさま家に連れて帰り、手当てをしてくれた。

「そ、そいつはまだ天神様に居るの?」

私は少し怯えながら聞いた。Iさんはにっこり笑って……。

「よく分からないけど、多分いるんだと思うよ。でも、話しかけなければ大丈夫だよ」

優しいIさんは、私を怖がらせない為にそう言ってくれたのだと思う。

こいつは一体何なのか、私は周囲の大人や、天神様の管理をしていた人などにも聞いてみたのだが、明確な答えは得られなかった。そもそもこれが天神様に関わりある存在なのかもよく分からない。しかし、ある作家さんからこういう解釈はどうだろう? という話を後年頂き、なるほどなぁと思ったので、その内容を記しておこうと思う。

「元来、何かが祀られていて、力なり、求心力のあるご本尊がある。で、誰かが管理しているのだが、当然、二四時間、三六五日見張ってはいない。としたら、物の怪と呼ばれるような存在や何かが、力や何かにひかれて寄って来たとしても不思議はない。日本人は祀られていると無条件で良い神様だと思い込むが、元々は怖い面を持つ物も多い。それであれば、神社に怖い物が居てもおかしくはないのではないか?」

Iさんはそれ以来、天神様には姿を見せず、他の子から同じような話を聞いた事もないが、私は何となく、今でも居るような気がしてならない。改装されたが、ブランコもまだしぶとく残っている。それは、雨降りの日に、少年が来るのを待っているのかもしれない。

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