貸し倉庫の怪(埼玉県桶川市) | コワイハナシ47

貸し倉庫の怪(埼玉県桶川市)

本書の最後に、私自身が心霊スポットを作ってしまった話を書いて、幕を閉じようと思う。

私は、怪談図書館というコンテンツを運営している。

内容は、色々な人に怪談を伺い、それを記録・蒐集し、動画で保存・公開していく活動をしている。現在はYouTubeで動画を無料公開しているので、興味のある方は「怪談図書館」で検索して頂けると幸いである。また、ホラー専門の銀座出版というレーベルで、CDやDVDを発売しているので、こちらも興味がある方は検索して頂ければと思う。

こうした活動をしていると、常時話や心霊写真を募集しており、それを譲り受ける為に、取材や交渉に出かける事も多い。その取材先でおかしな現象に遭遇する事もあり、取材が一番怖いという事もままあるので、楽しい。

そしてそこで入手した写真や資料を家に置いておくと、体調不良や事故が起こる事もある。曰く付きの写真や物は洒落にならない事態を引き起こす、強い力を持っているんだと実感した事が何度もあったのだ。

こういう事は伝染するもので、二〇一六年から、ナレーター・声優の美女、保志乃弓季ほしのゆきさん、ボーカロイドのような地声で、小さな文学少女キャラの関谷まゆこちゃんをメンバーに迎え、ユニットとして活動しているのだが、早くもメンバーに怪現象が起こっているらしく、データの保存や、やり取りに苦戦しているとの報告をもらった。

こうした情報の入手・管理にまつわる怪現象の話を古い順に書いていこうと思う。

写真や話を正式に集め始めたのは、中学生の終わり位からだと思う。

当時は趣味の募集を許可している雑誌などで、情報募集等をし、個別に連絡をくれた人に手紙でコンタクトしたりしていた。

少しばかり写真や資料が集まり出した時、ひょんな事からロッカーをもらった。更衣室にあるような、グレーの鉄製で、細長いあのロッカーだ。

部屋の隅にそいつを置いて、服を入れずに写真や資料を入れていた。

ある時、音楽の趣味が同じな女友達が家に遊びに来て、次にどのライブに行こうか、等と話していた時の事だ。仮にE子としておくが、彼女が急に落ち着かない様子で、そわそわし出した。

「どうした? 具合でも悪いのか? 送っていこうか? 横になるか?」

「いや、そうじゃないんだけど……ねぇ、その中、何が入ってるの?」

彼女が指さしたのは例のロッカーで、嫌そうな顔で見ている。

「何って、色々、まぁ本や写真とか、そんなモノだけど、どうして……」

「ごめん、あたし帰るね!」

そう言って、E子は殆ど逃げ出すように荷物をまとめると、部屋を飛び出していった。慌てて追いかけると、玄関前で上着を着たりしている。おかしいので、どうしたのか問い質す。失礼な事をした覚えはないが、あるなら謝ろうと思ったからだ。

「そうじゃないんだけど……ねぇ、あのロッカー何入れてるの?」

やたらとロッカーに拘るので、正直に中にある物を教えた。今度は急に泣きそうな顔になって、そのうち、本当にポロポロ泣き始めた。びっくりして、取りあえず慰めると、少し落ち着きを取り戻した。

「あのね、ロッカーの中から、長い手が沢山出てるの。それがね、部屋中這い回ってて、最初は無視してたんだけど、段々足首とか掴まれて……」

「は? え? 掴まれた……何、それ?」

「桜井君は気付かないよ。もう背中に沢山手が入っちゃってるから……」

「あのね、ずっとあの部屋にいるでしょう? だから、同調しちゃってて、麻痺してるのよ……だから怖くないのよ。でも、このままだと持っていかれるよ?」

「持っていかれる?」

「体調悪くなるか、事故か……それは分からないけど、死んじゃうの」

そんな事があって、神流湖の項で書いたお寺を紹介され、見てもらったという経緯があって、写真や資料の管理に気を使うようになり、粗塩を盛ったり、お札を貼ったりして、素人ながら防衛対策をするようになった。

取材も命がけである事が多く、しかも怪異は不意打ちで襲って来る。こんな事があった。

二〇〇一年に、仕事の急な出張で、出かけた時の事。次の日は土曜で休みの為、帰りの時間はゆっくりだったのだが、その日の夜は急に決まった移動の為、商談後はホテルが選べず、大都市でも無かった為、幾つも電話を掛けてやっと空きを見つけた宿に申し込んだ。場所は甲信越の某市で、仕事が終わり、駅前に戻った時は既に二四時を過ぎており、店は飲み屋以外殆ど閉まっており、唯一あったコンビニで(それも閉店寸前だったが)ミステリの文庫本と軽い食事を買い、タクシーを拾って宿の住所を告げると、何回も行き先を聞き返された挙句、渋々と言った感じで走り出した。

着くと、暗い感じの和風の宿で、民宿というよりは、連れ込み宿が転業したような風情で、どこか生気の無い、陰気な感じの女性が受付におり、部屋に案内してくれた。とにかく、野宿でなければいいや、等と言って出て来たのだが、それにしても愛想笑いの一つも無いのは気分がいい物ではない。

部屋に行くと、ごく普通の和室で、八畳程の部屋だった。

荷物を置き、まずは食事だと座って小一時間、実は次の日、その市にある心霊スポットを取材しようと思っていた私は、携帯で地図等を調べ始めた。

何となく落ち着かない部屋で、何が原因だろうと目を上げると、目の前に押入れが二カ所あった。間違いでは無く、白壁の両端に、それぞれ襖一つ分の押入れがあり、向かって右の押入れには襖に「布団入れ」と紙が貼ってあった。

立ち上がって開けると、何の事も無い布団が数組入っており、隅には湿気取りの吸収剤が置かれていた。では、ともう一つの襖を開けようとすると、

「開閉禁止」

そういう紙が貼ってあった。え? 使うなって事か? と不思議に思ったのだが、そこは好奇心が勝ってしまい、そっと開けてみた。そこにあったのは……。

もう一枚の襖だった。

意味が分からない。扉の中に扉? マトリョーシカのような作りに、理解が追いつかず止まってしまう。良く見れば、二枚目の襖は薄汚れていて、色々古い時代のキャラクターシールが貼ってあったり、落書きがあったりと、生活感がある。

こうなると、その襖も開けてみたくなる。一人出張先の部屋で深夜に何をしてるんだとは思うが、仕方ない。

自分でやった事だが、この部屋との、のっぴきならない勝負に入ってしまったので、途中で止める訳にはいかない。二枚目の扉を開ける。

三枚目の襖があった。

三枚目は、そこら中破れていて、まるで皮膚が垂れ下がるように、だらんと垂れている。

ひと際目立つのは、ほぼ中央に書かれた、ボールペンで繰り返し線を引き、太くしたような文字だ。

「……ちゃんでてこないで……」

と書かれており、その前後は破れていて読めないが、何か文章があったような雰囲気だ。内容も不気味な事この上ない。子供の悪戯かもしれないが、誰に出てこないでと頼んでいるのか? 一体、押入れにいる、出てくる物とは何だろうか?

三枚目をゆっくり開けようとすると、中からバリバリという音がして、何かが破れるような音がした為、そこで不気味さに負け、襖を全部元に戻した。

取材とは常にこうした不意打ちに出くわす危険に満ちていて、カメラが回っていないのが悔しい程サプライズに満ちている。

資料の保管でも信じられない事が起きる。

現在では、過去の痛い目を見た経験を活かして、資料や写真は貸し倉庫に置いている。月幾らと出費になるが、命を持っていかれたり、怪我をしたりしたら堪らない。

よくある、鉄製のコンテナを一個幾らで借りており、鍵は実家に置いてある。もう借りて数年になるが、借りて一年が過ぎる位から、おかしな報告が入るようになった。

ある土曜の午後、見慣れぬ電話番号から着信があった。

「はい、桜井ですが……」

「あ、お世話になっております。〇〇〇〇(貸し倉庫会社の名前)です」

「あ、はい、お世話様です。何でしょうか?」

「あの大変失礼ですが、桜井様のコンテナが、夜間の見回り中に問題になりまして……出来れば、明日立ち合いの元で一度確認をお願いしたいのですが……」

話が見えない。倉庫が夜間に問題になる? 立ち合いで確認? 取りあえず、無下に断るのも申し訳ないので、時間を作り、合流する事にした。

翌日曜日、午後に倉庫で管理担当の方とお会いした。何とも申し訳無さそうな表情で、きちんとネクタイをして待っておられた。

「お休みの所大変申し訳ありません。実は夜間の見回りの者から、ちょっと報告がありまして……桜井さんが借りておられるコンテナから、音がするっていうんです」

「音ですか? どんな音です?」

「中から引っかくような、がりがりという音がするという報告で、弊社としましても、一度確認だけはしておかないと、という事になりまして……」

なるほど、要は私が貸しコンテナで犬や猫を内緒で飼っていないか、疑っているのだ。信じられないかもしれないが、中には声帯手術をさせ、マンションやこうしたコンテナで内緒にペットを飼う人が居るそうで、それを開けて確認させて下さいという。

一緒に借りている倉庫まで行き、鍵を開ける。

中には写真や、資料、本、送られてきて引き取られなかった卒塔婆の半分や、ロケ時に見つけた事故の痕跡と思われるTシャツ等、色々な物が入っているが、生き物等当然飼っていないし、動くもの等も無い。それ以前に、ルール違反になるような使い方をしていないのだ。見られて困る事等何も無い。

一通り中を見て、管理の人は何度も頭を下げる。可哀想になって来て、もう少し詳しく理由を聞いた。

夜間の見回りは、アルバイトの方を雇っており、毎日決まった時間に見回っているそうだ。毎回、夜間の見回り時、コンテナ置き場でコンコンコン……というような音がする。音をそうっと辿って行くと、私のコンテナに着くという。しかし、コンテナの前まで来ると、音がパタッと止んでしまう。

そんな事が繰り返され、何か飼ってるんではないか? という話になったようだ。

幾ら見てもらっても構わないが、家は田舎の一軒家で、庭もある為、動物は沢山飼っている。犬、猫、ウサギ、アヒル、何でもいる。わざわざコンテナで飼う意味が無い。しかし、報告があったので、という事なんだろう。

自分も中にある物で、何か迷惑を掛けるような物があるかどうか、考えた。思い付くのはただ一つ。半分に折れた卒塔婆だ。

こいつの経緯も不気味な物で、出版社の手伝いをしていた頃、手に入れたというか、無理矢理押し付けられた物だ。

ある高校で、文化祭にお化け屋敷をする事になった。小道具で卒塔婆を作り、実行委員の子が洒落で友達の名前を戒名で書いた。文化祭の最中に、その友達は事故で死んだ。何となく怖くなって、美術担当の子に預けたら、部活中に棚が倒れ、その子が下敷きになり、頭蓋骨を骨折した。恐ろしくなって担任に相談すると、燃やしてしまえという事で、焼却炉に持って行った(当時は学校でゴミを燃やして処理していた。掃除の時間には、当番が焼却炉でゴミを燃やす用務員の方の所まで、ゴミ箱を持って行ったものだ)。すると、卒塔婆を他のゴミと投げ込んだ途端、焼却炉が壊れ、中止になった。そういう経緯で、怪奇現象を調べているという私に、送られて来たのだ。

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