畑トンネルの怪 二(埼玉県飯能市) | コワイハナシ47

畑トンネルの怪 二(埼玉県飯能市)

明治四三年三月三一日に完成した、埼玉県初の煉瓦巻きトンネルで、近代歴史遺産なのだが、地元では心霊スポットとして有名になってしまった場所である。

一時期はその入口にあたる道にゴミが不法投棄され、異様な様相だったが、その後周辺の変化に伴い、状況が移り変わっている。

二〇一六年一月九日深夜。

本書の原稿執筆にあたって、再度畑トンネルを訪れてみた。

トンネル入口にあたる場所に、とある会社の大きな施設があり、巨大な鉄柵の壁が築かれ、そのすぐ横には小さな芝生と植込みがあり、一見すると畑トンネルが消えてしまったように見える。

実際は、その芝生と植込みを越え、急な下り坂となった地面を降りると、金網の柵にぶつかる。会社側との境目に移動すると、柵と鉄柱があるのだが、誰かがその鉄柱を捻じ曲げており、僅かに隙間が出来ている。

その隙間から体を滑り込ませ、更に地面を下ると、漸く懐かしい、見覚えのある草道が出現する。その道をゆっくり右へ進むと、畑トンネルがその姿を現した。

入口直前にあったカーブミラーは無くなっており、誰かが撤去したようで、その他のゴミも無くなっていた。

相変わらず、明かり一つ無く、更に会社の施設や植込みに隠れるように埋もれているので、真っ暗な事には変わり無く、多少歩き易くなってはいたが、その不気味な印象は薄れていなかった。

あまり強過ぎないライトで照らしながら(強過ぎるライトは、不要な反射を引き起こし、偽オーブが写る原因となる。その為、過度に遠方まで照らすようなライトは使い辛かったりする。個人的には、機械的にあり得ない反射で写っている物を本物のオーブ、というか不明な現象として認識するようにしている)、トンネルの入口に立った。

中は静まり返り、意外とゴミや草、木は落ちておらず、綺麗だった。

トンネル内では特におかしな現象も起こらず、出口付近の壁が割れて水が染み出しており、外の地面に流れ出してグチャグチャの泥道になっているのも変わっていなかった。

私が子供の頃に来た時とはかなり印象が変わっているが、所々、覚えのある箇所が登場する。出口横に花束があった場所は、トンネル内の佇まいとは打って変わって、草が伸び放題、大きな木が倒れ込んで朽ち果てており、鬱蒼として迫るような感じで、重苦しい空気が流れていた。

「こっちは私が来た時より酷いですね、前はまだ、通行者が少ないながら居た時だったので、道の出口側もそれなりに片付いていたし、荒れてなかったんですよ。通行が無くなったからというのもあるでしょうが、心霊スポットとして見に来る人も、この出口辺りまで見て帰っちゃうんでしょうね。だから、この先は手つかずって感じですから……」

そんな話を同行者としていると、突如冷たい風が吹き、辺りの温度が下がった気がした。

何故か皆無言で、他のスポットに行った時のように検証したり、議論し合ったりという風にならない。

単にここが、それ程怖くない場所だという事で、拍子抜けしているのか、逆に何か感じているのか、とにかく皆一言も喋らず、辺りを見回しているだけで、写真すら撮らない。

「え〜とですね、調べた所、特に事件とかがあった記録は無いんですよ。だから、言われている程、陰惨で恐ろしい場所という事実は無いんですが、噂の類は相当昔からあるようで、亡くなった母に聞いた、なんて人が居る位です。まぁ、この辺り一帯が昔は人家も無く、暗かったので、特に心霊的な噂が立ち易い環境だったのが一つ。もう一つは冷静に考えて、自然が豊かと言えば聞こえはいいですが、単に山奥の道だったんで、犬、猫、狸、ネズミ、鳥なんかの野生生物が沢山居たでしょうから、女の子なんかが通り掛かった時に、それらの生物が動いた音を、幽霊的に勘違いして噂になった、パターンが多かったのかなと。そういう錯覚の起こり易い場所でもあります」

そんな説明をしていると、また風が吹く。異様に冷たい、まぁ、一月の夜だし当然かもしれないが、ぞくっとする風だ。

この日の同行者は三人だったが、皆私の説明に頷いたり、耳を傾けてはいるが、やはり口を開かない。

「それでは次もありますので戻りましょうか?」

私が促して、全員で入口に戻って歩き始める。何となく足取りが重い。煉瓦造りのトンネル内は綺麗と言ってよく、当時の精巧な仕事が見事で、小さいながら存在感のある雰囲気だ。思ったより木や石が落ちていないので、寂れた感は少ないのにもかかわらず、何だか釈然としない。

何がどうと言われると説明が難しい。中に入っている間中、ビデオカメラで撮影しているが、怪音や怪現象が明確に現れている訳でもなく、目立った異変は見受けられないのだが、全員の表情が不安げで、視線が落ち着かず、個々にバラバラの方向を見てばかりいて、何だかいつものノリが無い。

トンネルから出て、植込みに向かう坂道になって初めて、怖いですね、等と僅かに会話が聞かれた。私は最後尾を歩いていたので、漸く会話が戻って来た事に安心して、最後にトンネルを振り返り、カメラに収めようとした。

そこで気が付いた。カメラのレンズに泥のような物が付いている。

トンネルに降りて来る際に付いたのか? いや、機材を壊さないように、ゆっくりと注意して行動した。レンズ面を地面に付けるような事はしていない。

トンネル内でも立って歩いていただけで、膝をついてすらいない。それにもかかわらず汚れているのはどうにも解せない。さっきまで画面に汚れ等なかったし、あれば撮影しているのだから、当然止めてクリーニングする筈だ。

最後の最後に不可思議な現象が起きたなぁ、と、何となく去りがたい気分で眺めてしまう。私にとっては子供時分に怪現象に遭遇した場所であり、後からの認識ではあるが、有名なスポットだったというのも、何か因縁を感じさせる。

ここは周りの変化に飲まれ、どんどんとその存在自体が消し去られているスポットなので、特に感慨深いのだろうと思う。各地の有名スポットは、開発の為、老朽化の為、過度な見物者の増加による近隣住民の方の報告などによって、次々と姿を消したり、変わっていき、閉鎖されたりという末路を辿っている。

この埼玉屈指の古株心霊スポットも、外からでは見つける事も叶わない程、カモフラージュされるように奥に押し込まれ、そのまま飲み込まれて消えていく運命にあるのだろうと思う。時代の流れだが、寂しい気分でトンネルを後にした。

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