大宮ゴルフコースの怪(埼玉県上尾市) | コワイハナシ47

大宮ゴルフコースの怪(埼玉県上尾市)

埼玉県上尾市中分六ノ四○、昭和三四年開場、都心から約四〇キロの場所に位置し、春には一八ホール全体に桜が咲き乱れる。都心にあるコースながら、自然を生かした本格派の林間コースとして有名で、人気の高いゴルフ場でもある。全一八ホール、パー七二、六九一五ヤード。

この大きなゴルフ場の中を左右に分けるように通る道がある。来場者がクラブハウスに向かう為、従業員が通勤で使用等、重要な交通路であるが、地元の小学生にとっては(とかく学校から遠く、通学に時間のかかる藤波の子供達にとっては)、大事な通学路違反の為の道だった。

当然、女子生徒はそんな事をする者は少なかった。見つかれば怒られるし、まず違反をする事がいけない! という正しい考えの者が殆どだった。

男子にとっては夢の道で、近道をしつつ、見つかったら怒られるかも、というスリルを味わいながら、夏にはカブトムシやクワガタが捕れ、それ以外の季節は、自称ゴルフ名人がコース外に打ち出した、ゴルフボールの収集という大事な任務が待っている。

しかし、この道には難点がある。両側を高い金網で覆われ、背の高い木々がコース脇を埋める(ボールのコース外への飛び出しを防止する意味もあるのだろう)という立地の為か、夕方になるともう真っ暗で、更にクラブ営業時間後のこの道は、恐怖の暗闇一本道と化し、高学年の生徒にとっても大いなる度胸試しの感があった。

当然のように、この道には怪奇な噂が幾つかあり、私は撮影や友人達と共に訪れ、不思議な体験をしている。

代表的な怪奇現象は、真っ暗な道を女が付いて来る、という物で、振り返る度、凄い勢いで距離を縮めて来る、という。

もう一つは、夜この道で左右にある背の高い金網を叩く。石でも木でも何でもいいが、とにかく叩いて、耳を澄ませる。遠くからガンガン……と小さい音が聞こえたら成功だ。黒い影が出現したという証拠で、道を出るまで金網を叩いて付いて来る。この影に捕まると、暗闇に連れて行かれ、戻れないという噂がある。

どちらも、コース内に侵入した部外者を追いかける、クラブ従業員の姿から転じて発生した噂だと思うが、何かが追ってくるという点が共通項で、いかにもな話に仕上がっていて、当時の子供達には本気で恐れられていた。

三輪のバギーで部外者を追う従業員を、バイバイ(追い出すので、さようならの意味と、バイクに乗っているのをかけている)と呼んでいたが、実は彼らにもこうした体験があるというのを後で知った。

小学六年生の時、夏休みにクラスの何人かで肝試しをやった。二人一組で懐中電灯を持ち、コース内の道を通るだけ、なのだが、途中で金網を叩いたり、路肩も無く、数少ないが速度を出して通る車を避けたりと忙しい。

四年生の弟を連れて来たAの番になった。仲のいい兄弟で、Aはよく面倒を見ていたが、流石に弟のBはこの暗闇に怖気付いたようで、懐中電灯を両手で握りしめていた。出口に待っていた先行グループが言うには、そろそろ次の奴らが出てくるかなと、見ていると、AがBをおんぶして歩いて来た。

どうかしたのかと、驚いて駆け寄って行くと、Bがぐったりしている。訳を聞くと、金網を叩いて、しばらく電灯を消し、二人で黙っていたのだが何も起こらない。しびれを切らしたAが行こうと、声を掛けるが、Bが動こうとしない。何度も呼ぶのだが返事が無い。電灯を点けると、Bが半泣きしている。引っ張ると、左手で金網を掴んで動かない。何をやってるんだと怒り、金網を照らすと、Bの指を金網の向こうから掴んでいる手が見えた。

「ぎゃああああ!」

「うわあぁぁん!」

Aが叫ぶのと、Bが泣き出すのが同時で、Aが勢いで金網を猛烈に蹴とばすと、Bが弾かれるようによろめいた。そこを腕を掴んで逃げて来たのだが、途中でBが力が抜けたのか歩けなくなり、Aがおんぶして来た、という訳であった。

小学生時のそんな話を、軽くした所、それは面白い撮影場所だという事で、自分の企画した怪談動画の取材で訪れる事になった。

二○十二年一〇月のある夜、レポーター役の女性一名と、撮影の私で、コース内道路の入口に立っていた。簡単な打ち合わせを行い、ロケ車に戻って時間待ちをする。夕方の一八時には着いていたのだが、暗さと人通りの兼ね合いで、一九時位から撮影しようと決まった。車で待つ時間で、このコースの噂話をレポーター役のAさんに話す。

ひとしきりここにまつわる噂を聞いたAさんは、結構鋭い事を聞いてきた。

「ここで働いている人は何も見てないんですかね?」

今回、怪談企画の撮影にあたって、過去に勤めていた人から話を聞いた。ごく短期間で辞めてしまった方だが、不思議な体験をしたそうだ。

業務開始前に、コースの準備を整える仕事があり、早番は朝の五時や五時半から勤務となる。お客さんがゴルフを開始すると、彼らの仕事は終わりで、勤務時間は二、三時間という所だが、それを一パートとし、一日に二パート位入るそうだ。二パート目は後片付け、その他清掃という所だろうか。

ある日、このバイトに応募したHさんは、定年退職後の小遣い稼ぎにと、この仕事が決まってからは、率先して早番も希望した。早番は時間が早い割には、短時間でまとまっては稼げず、人気が無いので、逆に毎日のようにシフト組みしてもらったのだという。Hさんは新聞配達の仕事をしていたので、朝が早いのは苦にならなかったと言っていた。

冬も近いある日、早番のHさんが倉庫から清掃道具を出していると、コースに人が居るのが見えた。遠くからで、薄暗かったのもあり、良くは見えなかったが、どうも女性らしい。姿格好が自分と同じ従業員ではないし、お客はまだ入場出来ない時間だった為、おかしいと思い、見に行ったそうだ。

この時間のコース管理もHさんの業務の一つなので、もし外部の人間が入り込んで、怪我でもされたら責任問題になってしまう。極稀にではあるが、写真等の趣味の人が、無人のコースの写真を撮りに入り込む事があったそうで、注意して欲しいと、入社時に言われたそうだ。女性を見た方を追いかけて行ったが、姿は無い。しばらく辺りを探したが、やはり見当たらない。

倉庫に戻り、作業を続けていると、コース内の道を歩いている女性を見かけた。さっきの女性だ! とすぐに思ったそうで、金網越しに約二〇メートル程先を歩いて行く女性に声を掛けた。

「ちょっと! あなたコース内に入らないで下さいよ! 困るんで!」

Hさんはその後の事を話す間、落ち着かない様子で煙草を吹かしていた。

「あのね、声を掛けたら、振り向いたんだけど、目をひんむいてるんだよね。歯を食いしばるっていうか、怒って声を噛みしめてるような、そんな感じでね……一目でこりゃ普通じゃないと思ったよ」

その女性は体ごと振り返り、しばらくHさんを睨み付けると、凄い勢いで金網に体当たりした。Hさんはびっくりして思わず悲鳴が出たという。女性は顔を金網にこすり付けながら、両手で掴み、ぐわんぐわんと揺らしている。おかしな、低い唸り声は女性が出しているのだろうか? 怯えていたHさんはその辺が曖昧だと話してくれた。

「外見は、つまり服装とかは普通でしたか?」

「ええ、格好は普通、茶色っぽいスカートで、クリームっぽい色のセーター、肩位の黒髪。表情と行動以外は普通だったと思うなぁ……薄暗かったけど、金網越しに数メートルって距離で見たからね」

Hさんが声を震わせて見ていると、女性の金網を揺らす速度が勢いを増し、足踏みまでし始めた。これは一刻も早く事務所に戻って、同じ早番の同僚に助けを求めようと思い、走り始めた。

と、同時にガシャガシャと音がして、Hさんが振り返ると、あの女性がこちらを睨んだまま、凄い勢いで、まるで蜘蛛のように金網を登り始めていた。

「おわああああっ!」

Hさんは全速力で事務所まで駆け戻ったが、あの女性は追って来る事はなく、他の早番の同僚に話したが、そんなモノを見た事は無いと言われた。

「一体あれは何だったんだろうかと、そういうのを見た事は無かったんで……実際にいた者では無かったと思いますよ。その後、すぐに同僚と戻ってみましたから。警備会社も入っているんで、いざとなったら呼べばいいしという話をしてね……」

Hさんから聞いた話はこれで全てである。私が調べた所では、特に事件等の記録は無かったが、実際に知っているだけでも三人、この道に夕方から夜間通りかかり、痴漢や強盗にあった経験がある人がいた。暗く、長い道なので事件が起き易い環境というのがあるのだろう。当然ながら、ゴルフコースの区間は人家は無く、真っ暗で、助けも呼べない。変な言い方だが、犯罪を企む者にとっては理想的な場所だという事だ。

そんな話を取材で聞いたんだよ、と話すと、Aさんは流石に真っ青な顔をしていた。その日の企画は、Aさんがカメラとライトを持って、その道を歩いてもらうという企画だった。早く言えば肝試し企画なので、Aさんが怯えているのは画的には最高なのだが、あまりに怖がり過ぎてもレポートが出来なくなる。

「大丈夫だよ、画面には入らない場所で、後ろから俺が付いて行くし、さっきだって、おばさんが自転車で走って来たでしょ? まだ深夜でもないし、生活道路として使ってる人もいるんだから……」

そう言って慰めると、Aさんは少し気を取り直して、準備をし出した。機材等を確認し、撮影が始まった。Aさんが自分で撮影しながら、道の入口でこの場所の噂を話し始める。

「ガシャガシャーンッ……」

Aさんが話し始めて、数分も経たないうちに、暗闇に沈む道の先から、金網を叩いたような音がして、Aさんがビクっと体を震わせた。

「今の何ですかね……」

「……何でしょうかね……もしかしたら車とかが石でも跳ねたのかも……」

そう言ってしばらく待ってみたが、何も走って来る様子は無く、道は静まり返っている。こうしていても仕方ないので、話を再開してもらう。

「……という事で、この場所では色々と起きているようなんですね。これから、私はこの道を反対側の出口まで、歩いて行ってみようと思います。噂になっている女性というのを撮影出来ればいいなと思っています……」

Aさんはそこまで言い終えると、ゆっくりと歩き出した。

「左右の金網は……約七メートル位あるそうです。ライトで照らすとかなり上まで網目が見えます……暗闇に見える金網って怖いですね……先程、撮影を開始したばかりの時に、道の先から何かを叩くような、ガシャーンという音が聞こえて……」

Aさんがいい感じで話し始め、少し安心して見ていると、私の左側の暗闇から音が聞こえ出した。そちらは当然金網があり、ゴルフコースが広がっている。営業時間はとうに過ぎており、明かりも無いので人が居る可能性は極めて低い。

「んど……をもって……んでから……」

明らかに低い女のような声で、何かボソボソと喋っている。Aさんは声優を本業としており、声は高い。怪談動画の時は基本低めに喋ってもらってはいるが、今私が聞いているような低さではない。音的には中年の女性という感じがするが、姿が見えないので定かではない。

幸いな事に、Aさんはレポートに集中しているので、女性の声には気が付かないようだ。さっきの音に続いて、また声が、等という事になったら、更に怯えてしまい、まだ歩き出して一〇メートルも行かないのに、レポートが終わってしまうかもしれない。

私は聞かなかった事にして、Aさんの方に目を向けた。彼女はビデオカメラを自分に向けているので、カメラ本体のライトが当たっている。彼女の体は明かりではっきり見えるが、その周りは同じように漆黒の闇の筈だ。が、彼女の背後に、ぼわっと滲むようなオレンジ色の明かりが見える。このコース内の道は幅が狭く、夜間は車が通る時に歩行者がいると、かなり危ない。私は単車か自転車が来たと思い、少し離れた所で見守っていたのだが、そっと近付き(動画の企画設定上は、Aさんが心霊スポットを一人ロケ敢行! という事になっていた)端に避けろという合図をした。

「そしてですね、今回は何と撮った動画を音声解析や、明度調節をして調べて頂けるという事で、非常に……楽しみというか、本当は怖いんですが、行ってみますので、皆さん応援してて下さいね!」

Aさんは喋りながら道路端に動いた。明かりはやや大きくなっていた。そのうち横を通り過ぎるだろうが、車の音が入っては使えないので、一時中断となる。その事は彼女も承知しているので、切りのいい所まで話し終えて、そのまま黙っている。私の合図で、後ろから来るであろう車か通行人をやり過ごそうという準備のようだ。私も勿論そのつもりだったのだが、次の瞬間思わず唸ってしまった。

オレンジの光が、フラフラ揺れていたかと思ったら、そのままジグザグと空に昇って行ってしまったのだ。一瞬思考が止まった。当然こちらに向かって来るものだろうと思っていたら、そのまま空に消えてしまった。

場所と状況が違えば映画のようにエンジョイ&エキサイティングな光景だったのだが、このタイミングでは見たくない現象だった。

何も知らないAさんがこちらを指示を待つ目で見ている。

進ませるべきか、一旦待つか迷ったが、消えて居なくなったのも事実なので、進んで下さいという合図をして、また少し離れた。

「……それでは進んでみましょう。うわ〜暗いですね、夜間の営業後なので、明かり一つありませんし、照明も殆ど無いです」

「っまでそ……んだい……しど……」

やはりAさんの声に交じって、低く別の声がする。

「ここから黒い影が見えますね……あれがクラブハウスなんでしょうか? カメラには映るかな……もう少し近付いてみようと思います。人のいない暗い建物って怖いですね……周りに人家も無いという事で……」

Aさんのレポートが順調になればなる程、斜め後方から付いて来る声はハッキリして来る。嫌な気配を感じ始めていると、Aさんが声を掛けて来た。

「あ、ちょっと止めます! 桜井さん、人が居ます! 人が居ます!」

「え? どこ!?」

クラブハウスの前は小さいロータリーと駐車場になっており、その奥にクラブハウスがある。暗闇ではあるが、駐車場の辺りは木々も無く、うっすら様子が見て取れる。どうやら駐車場の端に、人が立っているような影が見える。

従業員だろうか? こちらを黙って見ているので、私が説明に行く事にした。

「ちょっと行って説明してきます。通報でもされたら困るので」

「了解です……気を付けて下さいよ!」

撮影中は雰囲気を壊すので、私自身はライトを点けない。昔から目が良く、夜目も利くので、特に不自由はないが、暗闇の中近付くと驚かせてしまうのと、撮影が止まっていれば点けない理由は無いので、ライトを点け、やや足音を大きくさせて歩いて行った。

が、今度は私が驚く番だった。

近付けば近付く程、先程見えていた人影は薄くなり、見えなくなっていく。こちらの接近を知って、存在を消すように、周囲の闇に紛れて消えていくようであった。

途中からは、もう居ないな、という思いは確信に変わり、駐車場の端に着いた時には、やはりなという確認になった。

誰も居ない。

気配すら無い。私とAさんは二人で人影を認めたので、撮影を止めたのだ。終わりが遅くなる事を冗談でやる意味は無いし、こういう時はカメラを止めているので、撮影して見せ場にするという目的でもない。我々の側がわざわざこんな行動をする必要は全くない。

わざとやる意味が無ければ、起こった場合は、結果は一つ。

本当に不思議なモノと遭遇してしまった、という事である。

私はゆっくりと振り返り、背後の音に気を向けながら、Aさんの方に歩き始めた。特にそれ以上異変は起こらないまま戻った。

「どうでしたか? 時間かかってましたが……」

「誰も居ませんでした……見間違いでしょう……」

Aさんもそれ以上は何も聞かず、撮影を再開した。空気がじっとりと感じられた。

「さて、暗闇のクラブハウスを過ぎました。ここからが金網を昇った女性が出たという倉庫の前を通る事になります。緊張しますね……女性は再び出るんでしょうか? それとも、もう消えてしまったんでしょうか……」

盛り上げながら進んでいく。ここまででも、もう既に色々あったのだが、まだ距離としては半分も来ていない。

Hさんの証言にあった通り、倉庫の周りは金網が無く、誰でもコース内に入れるようになっている。勿論、警報装置の類はあるだろうが、入れはする。だから、今からコース内に人が居ても、物理的に入れるのだからそれ程驚く事は無いのだ、と自分に言い聞かせる。何故かと言えば、先程の駐車場の、影に近付いて消えてしまった感覚が、異様に強く残っているからだ。何となく、闇に溶けた体内に入ってしまったような、嫌な感覚で、まとわりつくようだ。

「スタッフさんが調べてくれた話ですと、朝方の遭遇だったらしいですね。今は深夜ですが、あれ……何か音が……携帯ですかね? 止めます?」

Aさんがそう言うので、改めてポケットを探ると、電話が着信を告げていた。サイレントモードにしていたのだが、辺りがしんと静まり返っているので、バイブレーションの音もかなり目立つ。

「すいません、止めます! 何だろ……あれ? Kだ……」

ロケ車担当のスタッフKからの着信だった。こちらの撮影班が本番を撮っているのだから、余程の事が無い限り、電話等して来ない。万が一、サイレントにしておらず、着信音が鳴り響いてしまったら、その時撮っている物が台無しになる。

無論、こちらも電源を切っておけば安全なのだが、時間の確認や何かで、プロデューサーの私が全く連絡を取れなくなってしまうのもまずく、サイレントにしていたのだ。

「もしもし、さくら……」

「あ! Kです! Kです! すいません、移動します! 移動します! 入口側に向かうんで戻って下さい! 進まないで下さい!」

それだけ言うと、Kはさっさと電話を切ってしまった。

「Kからでした。入口に車回すそうです、戻れって言うんですけどね……何を考えてるんだか……」

「どうしますか? まだ半分以上ありますよね、これ……」

「う〜ん、あいつも遅くなればなる程、帰るのも遅れる訳だから、何も無くて戻れなんて言わないと思うんですよね。でも今から戻ってまた続きから、なんてやってると、際限無くなっちゃうからね……」

「じゃ、進みましょうか? 金網を昇る女性のエピソードまでは喋れたと思うんで、次は何件か起こった強盗事件の話からですね……」

そんな相談をしていると、凄い勢いでロケ車がやって来て、K君が乗れと手ぶりで合図している。何かおかしいと思いながら、Aさんを乗せ、私も後部座席に取りあえず乗り込んだ。

ドアを閉めている最中にもかかわらず、車は発進し、コースから離れ始めた。今では、コースの近くにもコンビニや、安売りの量販店があるのだが、撮影当時はまだそこまで近くに店は無く、一〇分以上走って、漸く見つけたコンビニに車を突っ込んだ。

「なぁ、どうした! 説明を……」

「今は出来ません! コンビニかどこか見つけますから! 待って下さい!」

運転している間中、こんな会話をしていた。Kは普段と違い、何だか興奮した様子で、いつもより運転も荒い。Aさんも不安な顔でこちらを見ている。

車が止まり、漸くKがこちらを向いたので、話が出来るかと思った瞬間、Aさんが短い悲鳴とも、何とも言えない驚き声を上げた。

「……びっくりした! 何ですか? Aさん何かありました!?」

Aさんに言うと、指をさして黙ってしまった。

彼女は車の後部ガラスを指さしており、そこには何か、手に泥でも付けて、車をよじ登ったような跡が付いていた。よく見ると、左右の窓ガラスにもその跡が付いていた。何だこれと思いながら、ドアを開け、外に出て見てみるが、泥なのは間違いないようだった。

Kが遅れて降りて来て、後ろに立って言った。

「申し訳ないですけど、俺寝ちゃってて、車が揺れたから目が覚めたら、何かが車の天井を駆け降りて行ったんですよ……金網女ですかね?……」

取材は後日別の場所で仕切り直す事にして、私達はそこを逃げ出した。

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