賽銭泥棒と白い蛇(東京都渋谷区) | コワイハナシ47

賽銭泥棒と白い蛇(東京都渋谷区)

ある年の正月のこと。中学生の巻田君は、同級生と初詣に出かけた。

自宅から自転車でスタートして、ゴールは明治神宮。その途中に神社があったら、そこにもお詣りする。お詣りとは言っても、途中の神社は賽さい銭せんはなし。鈴を鳴らして手を合わせるだけにした。

普段は気にも留めないが、改めて気を付けてみるとそこかしこに神社があった。

「一応、ルールとしては鈴を鳴らして柏手を打つって決めてたんで」

別に巻田君達が特別信心深かったというわけでもなく、半ばゲーム感覚だった。

幾つか回るうちに、ちょっとラッキーな神社があった。

普通、賽銭箱と言えば梯はし子ごのような蓋が付いていて、中に落ちた浄財に手を付けることはもちろん、幾らぐらいあるのか中を覗き込むこともできない。

ところが、この神社の賽銭はそういった普通の賽銭箱ではなく、大皿に乗せられていた。

「刺身の盛り合わせを乗せるような、大きな皿ありますよね。それの上に剥き出しの金が置いてあるわけですよ。そりゃもう持ってってくれって言わんばかりに」

小銭から紙幣に至るまで、不用心に放り出されていた。

幸い、参拝客はほとんど見かけない。今頃、メジャーどころの大きな神社は人でごった返しているのだろう。けれど、宮司が常駐しているかどうかも怪しいこの神社には、参拝客どころか近隣の住人の姿すら見えない。

巻田君達は、その賽銭を根刮ぎ掴んでポケットにねじ込んだ。

「これ、賽銭泥棒ですよね。でも、そんときはヤッター!神様お年玉ありがとう!今年は正月から縁起がいいや、って。それしか考えてませんでしたねえ」

現金なもので、御利益の前払いを受けて幸せな気分になった巻田君達は、当初の目的だった明治神宮詣りをとっとと切り上げてしまった。

二人は「これはメジャーな明治神宮の御利益というより、マイナーな神社をたくさん回ったから、塵ちりも積もって山となったに違いない」と、都合のいい理屈を付けて納得した。

その帰り道。

自宅近くまで戻ってきたところで、同じクラスの同級生、名倉君に会った。

クラスが同じだというだけでさほど親しいわけでもないので、「よう」と声だけ掛けて、そのまま通り過ぎようとしたところ、すれ違い様に声を掛けられた。

「おい、巻田──おまえ、ヤバイぞ」

巻田君はどきりとした。

気付かぬ振りをして白を切ろうと思ったところに、名倉君は追い打ちを掛けた。

「おまえ……足に白い蛇、巻き付いてんぞ」

思わずペダルに乗せた足元を見るが、自分には何も見えない。

二の句も継げないでいると、名倉君はトドメを刺した。

「神社で何か悪いことしたろ?」

つい最前にやらかしてきたのは賽銭泥棒である。

「いや、その……賽銭が出しっぱなしになってる所があってさ。それで……」

「あー、それだな。神様だかお使いだかが怒ってる。おまえ、それ返して謝らないと取り殺されるぞ」

取り殺す──。

さらっと言われたその一言で急に恐ろしくなった。

「で、どこから盗ってきたんだよ」

「確か氷川神社って……でも、どの氷川神社だったかまではわかんない」

埼玉県さいたま市大宮に本社がある氷川神社は、東京の北西部では割とポピュラーな神社で末社も多い。隣りあった町内に幾つも氷川神社があったりする。

「まあ、神社ってのはフランチャイズみたいなもんだから。系列の神社なら神様も繋がってるし、どこに返しても大丈夫。一緒に行ってやるから、それ全部返して謝れよ」

名倉君に付きそわれた巻田君達は、賽銭箱にポケットの中身を洗いざらい詰め込んで、必死に頭を下げた。

「これほど真剣に神様に手を合わせたのって、アレが生まれて初めてだったかも」

その後、巻田君は度々名倉君の世話になることになる。

なお、当時の巻田君は知る由もなかったのだが、本稿を改めて書き起こすに当たって氷川神社の由来を調べ直してみた。

主祭神は奇稲田姫と素戔嗚尊。ヤマタノオロチ=蛇と縁があった。

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