「ママ……」
一九九五年の一月十七日の未明。時計はまだ二時を回ったところだった。寝入りばなの後藤さんは、寝室の入り口で囁く次女の声で目を覚ました。
「あら、どうしたの?」
次女は眠い目を擦る幼い姉の手を引いて立っていた。
「パパやママと一緒に寝たいの」
「あらあら、困った子ねぇ」
後藤さんは二人を自分達のベッドに招き入れた。
その数時間後、家が上下に跳ねるような激しい振動と共に直下型の地震が起きた。
ひとしきり揺れが落ち着いたところで恐る恐る子供部屋を覗いてみると、子供達が寝かされていたはずの布団の上には、木製の本棚が倒れ込んでいた。