河童とどったん(愛知県) | コワイハナシ47

河童とどったん(愛知県)

以前、山岸さんから伺った話である。

山岸さんの実家は愛知の山奥にある。山岸さん本人もそのご両親も、一族郎党皆霊感が強いらしい。

山岸さんのおじいさんが子供だった頃の話である。

江戸から明治へと時代が変わろうかという頃。東京都中野区にある哲学堂を開いたことで知られる井上円了が、幽霊や妖怪を怖れる俗信を否定するべく蒙を啓いていた時代に、山岸さんの祖父の村では河童が捕らえられた。

子供が何人か川に引きずり込まれる事件が続き、罠を仕掛けていたのだが、それに河童が掛かったというのである。

村の若い男達は、よってたかって河童を殴り殺した。だが、河童の仲間が死体を取り返しにくるかもしれないので、大木に河童の死体を縛り付けて交替で見張りをした。

子供達は大人達から、

「河童に尻子玉を抜かれるから近付いてはいけない」

と言われて見せてもらえなかった。

だが、山岸さんのおじいさんは怖いもの見たさのあまり、村の子供達と連れだって夜中に河童の様子を見に行った。

大木に縛り付けられた河童は魚が腐ったような匂いを発していた。実際、死体となってから相当の時間が経っていたから、とうに腐っていてもおかしくはなかった。

それからしばらくして降った豪雨の後、河童の死体はなくなってしまった。

さて、この山岸さんの実家は古い造りの田舎家であった。

山岸さんが子供の頃、この家に泊まりにいくと客間に寝かされたものだが、まるで民話に出てくる山やまん姥ばの家のような感じだった。天井の目板がなく、組んだ梁が剥き出しになっている建物は全体に古く、小さな山岸さんは途と轍てつもなく心細くなった。

ある晩、客間に寝ていた山岸さんが寝返りを打ったところ、正面の障子が開いていた。

うとうとしながら障子の隙間を見つめていると、不意に大きな音とともに大きな顔が障子の向こう側に落ちてきた。

「……結局、すぐに消えちゃったんだけどね、顔は」

「それって〈つるべおとし〉って奴じゃないでしょうね」

〈つるべおとし〉とは、巨大な顔だけの妖怪である。古い家の高い梁の上から、ずどーんと落ちてきてニタッと笑ったりするという。

僕が訊くと山岸さんは、ぽんと手を打って答えた。

「あぁ、それかもしれない」

幽霊を見た話は聞かないこともない。

だが、妖怪を見たという話は実に貴重なものなのかもしれない。

シェアする

フォローする