熊本城 井戸に現れる女性(熊本市中央区本丸) | コワイハナシ47

熊本城 井戸に現れる女性(熊本市中央区本丸)

熊本城への入り口は数か所あり、裏手の方に回ると植物園や二の丸公園に繋がる坂道がある。この坂道が妙に暗く、そしてその横にある大きな井戸が気になっていた。

蓋がしてある井戸もあれば、城内の井戸によっては鉄格子だけになっており、中が底まで見えるのもある。その井戸だけは何となく覗きたくなかった。

2、3メートルの直径はあるような大井戸、覗けば引き込まれそうだ。

その坂道には霊が出るともっぱらの噂だった。

市内の街中の企業に勤める福永さん(仮名)はその道を通って島崎の方から通勤していた。車通勤だったが、車検に出していたのでその日は自転車通勤だった。

福永さんは妊娠3か月と診断されたばかりだった。恋人は会社に通ってくる運送関係の業者さんだった。

彼女は結婚するつもりでいた。もちろんできちゃった結婚だが、彼とももう3年付き合っているし、そろそろいい頃だと思っていたのだ。

メールで妊娠報告をしたら、嬉しそうな返事がきた。次は両親との顔合わせだね、と話していた矢先だった。

彼とは毎週会社で顔を合わせる。だがメールして以来、急に業者さんの担当が代わり、なかなか会えなくなった。自分の車を車検に出したので、彼の車に乗せてもらおうと連絡したが、時間帯が合わないそうで帰りなら送れるかもと返事があった。

雨が急に降ってきて、自転車では帰れず傘をさして歩くことにした。彼の言葉を思い出し、電話してみた。

「そう。今時間あるから迎えに行くよ。どの辺歩いてる?」

「お城の……伝統工芸館過ぎたとこかな」

「わかった、後ろから追いつくからゆっくり歩いてて」

「ありがとう!」

やっぱり彼女が妊娠したとなると優しい。福永さんはウキウキして歩いた。

あの坂と井戸の近くになった。冬なので辺りは真っ暗で街灯もまばらだ。その時、後ろから気配がした。彼が車でそろそろと付いてきてるに違いない。ちょっとからかってやろう。

わざと気づかないふりをして、ゆっくり歩いた。

右側に車道を見ないように歩くと左が井戸と坂になる。そのときちらりと井戸を見てしまった。

井戸の蓋あたりから女性の上半身だけが出ている。髪が長くて縞の着物のような柄だった。

「うわ!」

福永さんはびくっとして足を止めた。

もう一度井戸を見るが、幻だったようで何もいなかった。

ああよかった。見間違いか……だけど怖い、右側にいるはずの彼の車の方を見た。

やはり後ろをついてきたのは彼の車だったが、彼の顔には表情がなく、福永さんに気付いている風なのに、じっと見て手を振るわけでもない。

よく見ると隣の助手席に女性が座っている。着物を着た女性だった。混乱して見ていたら、ゆっくりと車が去っていった。

慌てて電話をしたが、コール音だけで出なかった。その後も連絡が取れなくなってしまった。あの霊に憑りつかれてしまったんだろうかと心配する。

数日後、彼の後任に話し、彼の家の連絡先を聞こうとした。すると、

「あの人? 3日前に会社辞めましたよ。奥さんの実家の家業継ぐらしくて」

「奥さん? あの人結婚してるんですか?」

「そうですよ。子供さんも2人いますよ」

福永さんはショックで倒れそうだった。業者はこそこそと話し始めた。

「あの人、気を付けた方がいいですよ。すぐ女に手を出すから。前も妊娠させた彼女がいて、事故装って車で轢きましたからね。意識不明のまんまですよ。死人に口なしってね。あ、僕が言ったってことは内緒でお願いしますよ」

腰が抜けそうだった。あの時車で近づいた彼は……助手席にいたのは?

「あの、奥様は和服を着るような方ですか?」

「着物? いやあ。Tシャツジーパンみたいな恰好しか見たことないね、そんなお上品な恰好しないよ」

じゃああの着物の女は一体……。いや、あの井戸の縞の着物の幽霊……?

あまりのショックで、福永さんは授かったお腹の子を流産してしまった。

風の噂では継いだ奥さんの実家の会社も倒産し、離婚して行方知れずだという。事故で大怪我させた女性がどうなったかは、もう誰もわからない。

あの井戸は大正時代、大店の女中さんが、投げ込まれ殺されたという。当時のスキャンダルとして紙面をにぎわせた。

その女中さんは縞の着物を着て大店の集合写真に写っていた。

相手は薬局に通う出入りの業者だった。妻子がいたが、不倫相手の女中を妊娠させたために、口封じに殺したという。

あの井戸に蓋がされているのは、それから後のことだった。それ以降、あの辺りで着物を着た霊を見かけるという評判が立ったようだ。

だが、こんなことはもっと昔から起きていたのかもしれない。現在の事件も霊が出てからわかることもある。

今も井戸の底には何か秘密が眠っていそうだ。

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