年に数回あの大きな火口に自殺しようと飛び込む人がいた。
もうもうと煙が立ち上る中に飛び込むと、緩やかなすり鉢状の火口の途中で引っかかる。体が高熱で溶けてしまう苦しみを味わい死にきれないという。
阿蘇観光で火口付近に行った江藤さんが話してくれた。
火口付近は手摺りや柵があって中には入れないが、もちろん低い柵なので飛び越えることができなくはない。
火口のなだらかな坂に何かが動いている。動物か? と目を凝らすと、芋虫のようにぐねぐねと動く人間の姿だった。
その瞬間、俺も行かなくてはという感情が脳裏に蔓延し、体が勝手に柵を登ろうと足をかけた。体が前のめりになって、ぐらっとしたとき、
「危なかですよ! 何しよっとですか!(何してるんですか)」
ガイドさんに腰を引っ張られ、止められた。
「あそこに人が苦しんでおられるんです。誰か助けないと」
「どこですか? 見えませんよ」
もう一度同じ場所を見たが、あの芋虫のような人はいなかった。
死にきれない霊に引き込まれる観光客もいたそうだ。