上熊本の森の闇(熊本市中央区上熊本) | コワイハナシ47

上熊本の森の闇(熊本市中央区上熊本)

タクシー運転手の水野さんは、霊を信じない性格だった。全部嘘だと思わないと深夜タクシーなんてやってられないと言い、話始めた。

「これも多分、見間違いと思うんですがね」

真夏の深夜2時くらいだった。熊本の終バスが行ってしまうと、タクシーが活躍する。水野さんは市役所の前で1人手を挙げてた男性を乗せた。

スーツ姿の男性はびしょ濡れだった。シートが汚れたら嫌だなと思って、

「お客さん、酒ば、浴びる程飲んだとですか?」

「……上熊本まで」

男性は水野さんの冗談には答えず黙って座っていた。

上熊本駅方面に車を走らせる。この辺ですか? という問いには、

「もっとその先……道なりに」

駅の京町側の山はそれなりに開けているが、そこを通り過ぎるとどんどん山奥になっていく。タクシー歴40年の水野さんでも、この辺りまでは来たことがなかった。だんだんと嫌な予感がしてきた。

(この人、山奥まで連れてって俺を殺して強盗すっとじゃなかろか)

その不安からか、何だか息苦しく、寒気もしてきた。

「お客さん、どこに向かってるんです?」

「……家たい。俺が家たい……(家です。私の家だ)」

ぼそりとつぶやく声。それ以上は話が進まず、シーンとした中どんどん車は走る。山奥の竹藪や黒く枝を伸ばした木々が車を包み込むようで、電灯もない。

「お客さん、まーだ先ですか?」

「あの道の先、家があるでしょ。あれたい」

よく見ると先の方にこじんまりとした家がある。

「ここでよか。降りる」

家の見える手前に停め、男性を降ろす。何かされるか身構えたが、普通にお札を出しお釣りをもらって家の方に向かっていった。明かりもなく家には誰もいない様子で、男は暗闇に飲み込まれるようにすうっと消えていった。

「良かった。さて、帰るか」

ところが今まで来た道を戻ろうとするが、1本道だったのになかなか市道に戻れない。街の明かりを目指して30分ほど運転すると、やっと市道らしきアスファルトの道に出た。

その後、上熊本に住む知り合いにその家の話をしたが、誰もそんな家を知らなかった。また水野さんも暇なときに昼間あの山を目指したが、同じ場所にはたどり着けなかったし家らしきものはなかった。だが、墓はあった。

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