植木町にある旧信愛病院。かなりの廃墟で、心霊スポットとして高校生男子は必ず一度は行った人も多い。その例にもれず田上さんも男女4人で行ったという。
深夜12時過ぎ、駐車場に車を停めて中に入る。懐中電灯で辺りを見回しても落書きや壊れた窓枠、足の踏み場のないような落下物ばかりだ。
駐車場から歩いて、やっと建物に入る。それすらも真っ暗で不気味だ。
永井さんが玄関に足を踏み入れた瞬間から、全身の毛が逆立つような感覚になった。彼は少し霊感があった。
玄関からおびただしいガラスの破片や壁の落書き。地下にあるという霊安室の方向からは、明らかに霊がうようよいるような黒いもやが見える。
永井さんは気持ち悪くなり帰ろうと言った。仲間は怖がりながらもまだ探検したいと言う。その時だった。目の前の割れた窓ガラスに4人の姿が映った。
4人の他にあと5人くらいの人影が背後に写っていた。
「キャー!」
女子たちがその複数の人影を見た瞬間にその場から逃げた。一緒になって永井さんも逃げた。でももう1人の男友だちはそれを見てないので残るという。
「先に行っとくけん! 後で来なっせよ(来いよ)!」
駐車した場所に戻り、車で待ってると30分くらいして友だちが戻ってきた。
「何も起きんかったよ、カルテ持ってきた。武勇伝、武勇伝!」
興奮した顔で戻ってきた。すると、突然永井さんの電話が鳴った。
その電話は故障して動かなくなった携帯電話だった。
「何で壊れとるとに鳴ると……」
女子たちがあまり怖がるので、男友達に携帯を渡し、電話に出てもらった。
「どうだった?」
「いや、何かぶつぶつ言いよったけど……」
その後、友だちの顔を見ると真っ青というか真っ白だった。
「大丈夫や?」
声を掛けたがカルテを持ったままぼーっとしていた。助手席の友だちが降りる時、カルテを置いて行きそうだったので、友だちに押し付けて、永井さんは車を出した。さっきの携帯電話を友だちに渡したままだったのを思い出したが、もういいやと戻らずに家に帰った。
その後永井さんには何も起きなかったが、友だちがバイクで大大怪我の事故に遭ったと聞いた。それ以降、彼に会うことはなかった。
信愛病院はターミナルの総合病院だったので、救急の患者も搬送され、病院で亡くなる人も多かったというから、多くの霊がいてもおかしくない廃墟だ。