中央区のとある病院での話だ。康成さんが個室の病室で寝ていた時の事だった。
夜中に目が覚め、どうも嫌な視線を感じる。窓辺りから誰かが見ている気がした。だがベッドに寝たきりで動くことができない。
すると窓に外の電灯を背にして人らしき姿が立っているのが見える。真っ黒な影になっていて男か女かもわからない。
ここは2階のはずだが……ぞっとしながら見ていると、その影が窓のへりから、ズズ、ズズズ、と内側に入ってきた。
「ズルズルズル」
その黒い物体は窓を越えて液体のように部屋の中に入り込み、たちまち人の形のような物体になった。
そして康成さんの寝ているベッドにズズズっと近づいてくる。
「うわああああ!」
康成さんは怖くなって布団を被った。
思いつくだけのお経を読んだ。
しかし、その黒い物体は異様に早く康成さんの布団の上に襲いかかってきた!
布団の上に乗り、康成さんを覗き込もうとしている。
ちらりと見たが、真っ黒な物体で、やはり顔も何もわからない。急いで手元のナースコールボタンを押し続けた。
慌てて看護師や医師がやってきて、ドアを開けた瞬間にその黒いものは消えていった。
「すぐに部屋を変えてくれんか!」
「他の部屋はあいとらんのです」
仕方なく、個室のドアを開けてもらいパトロールしてもらうことになり、黒い物体は出なくなった。
その病院の近くには市内を走る大きな道が通る。
事故で救急搬送される人も多いことから、そういう魂が物体になって現れるのかもしれない。