新説 白糸の滝の怨霊(熊本県阿蘇郡西原村) | コワイハナシ47

新説 白糸の滝の怨霊(熊本県阿蘇郡西原村)

阿蘇の西原村には昔から怖い言い伝えがある。

白糸の滝に女性が行くと不幸が起きる。特に妊娠した女性や婚期を控えた女性は行かない方が良いというのだ。

それはここにある寄姫伝説から言われている。

木山の殿様に仕える兵部という男がいた。この白糸の滝は夏も涼しく、避暑に行くのが常だった。

ある時、湖面を渡りながらやってきた美しい姫がいた。透けるように肌は白く、艶やかな黒く長い髪、輝くピンク色の頬と唇。そして水に濡れて透けたしなやかな体。

兵部は見た瞬間にその姫に恋をした。

「あなたはどちらから参られたか?」

しかし姫は笑って

「この近くに住んでいる者です」

「どうぞ、どこの御姫様か教えていただきたい」

何とか家に連れて帰り、わが妻にしたいと思うようになっていた。

毎日白糸の滝に出かけては、兵部が知っている面白い話をして、いつしか姫も兵部に心を傾けるようになった。姫の名は寄姫といい、高貴な神官の姫君のようだった。

3日目の昼、兵部は姫が服を脱いで水浴びをしている所を見てしまった。細く真っ白な体、後ろ姿だけだったがそれは美しく、輝いていた。兵部はこの姫をどうしても手に入れたくなった。

水浴びが終わった頃、姫に近付き、思い切って兵部は言う。

「姫、明日の夜ここでまた会いたい。そうすれば私の良さをもっと知ってもらえるだろう」

「夜に会うと何があるんです?」

「私はね、昼間と夜では人が変わったようになるんだよ」

「そうですか、私も似た所があります。では夜に逢いましょう」

兵部は小躍りして、家に戻り、夜に姫に逢う準備をした。

夜になり、辺りは真っ暗。滝の音だけが静寂に響き渡る。

「兵部さま、お待ちしておりました」

湖面を歩いてきた白装束の寄姫は、すでに水に濡れ熱っぽい潤んだ目で兵部を見ていた。兵部はもうたまらずに、寄姫を抱きしめる。昼間の優しい兵部と違う、力強い男の手だった。

「姫、二度と離しませぬ。昼も夜も愛し続けます」

「兵部さま……どんな私でも愛してくれますか……」

「もちろんだ。いつまでも大切にします」

幻想的な滝を見ながら、2人は結ばれた。

離れがたくなった2人は兵部の家で暮らすことになった。

寄姫は美しく見せびらかしたかった。ただ、寄姫は無理に連れてきたので、まだ妻として人に話すことはできない。

そのうち同僚の1人が言い出した。

「最近ずいぶん機嫌がいいな。女ができたか」

「まあ、そんなところだ」

「何だ、嫁をもらうのか? 見せろ」

「だめだだめだ。まだ見せられない。美しすぎてお前には毒だ」

同僚は笑いながら、少し真面目な顔になった。

「なあ兵部。実はな……この前お前の家から人魂が出るのが見えたんだ。何か悪い霊でも憑いてないか?」

「霊? いやあ……俺に付いてるのはかわいい姫様だけだ」

「ああ、そうだったな。だけど気を付けろよ。俺が見た人魂は裁縫道具を持っていた。変な話だが、顔くらいの大きさの人魂に裁縫箱だ。お前の昔の女にお針子がいなかったか?」

「俺はそんな女は知らん。もういいその話は。帰った帰った」

同僚を追い出し、ふと振り向くと、姫の裁縫箱がある。この家に来る時に持ってきた物のようだ。

姫に尋ねると、近所で裁縫を習っているので、そこに行っていると答えた。習い事なら仕方ないが、どこの家に行っているのか聞くと言葉をはぐらかし答えない。

兵部は夜の勤務があり、しばらく家を空けると嘘をつき、様子をうかがった。どうも怪しい。他に男がいるのではないか。

するとこっそりと出て行く寄姫の姿があった。

(姫、どこへ行くのだ)

こっそり後をつけたが、夜に紛れて姿を見失ってしまう。

次の日も、また次の日も夜になると出かけ、朝方に帰ってくる。しかもなまめかしいあくびなどしながら帰ってくる。兵部はあの滝での幻想的な夜を思い出し、嫉妬にかられた。

(この女、他にも男がいるのか……わしを騙したな)

裏切られた男の怒りは頂点に達する。

4日目の夜、ついに家を出て行く姫を捕まえ、持っていた刀でエイ! と切りつけた。

「わしを裏切り、どこの家に行っているのだ!」

「何をなさるんです! ひどい……」

「待て!」

姫は走っていった。あっと言う間に姿を見失う。姫が流した血をたどると、あの白糸の滝だった。

滝のそばの大きな穴倉まで続いており、中を見ると、血を流した大蛇がいた。

「へ、へび! ば、ばけもの!」

するとその大蛇は兵部の首に飛びつき、とぐろを巻きこう言った。

「あなた様と離れがたきは、まことのことにございます」

「ぐうううう……苦しい……」

大蛇は真っ赤な目をして答えた。

「私とは一生離れぬと、ここで抱き合い話したではないか!」

「わしは……姫と約束し……じゃが、化け物となんか嫌じゃ……」

「あの夜どんな私も好きだと言うたは嘘か!」

大蛇は怒り巻き付き、兵部の首をギシギシ、と縛り上げた。

その後、兵部は行方不明となり、白糸の滝では裁縫箱と兵部の刀だけが落ちていたという。

それから、この白糸の滝で寄姫を見かける者もいなくなった。

今も滝の前に幻想的な女性が見えることもあるそうだが、心霊スポットとして扱われている。

寄姫の女の思いは怨念となり、今も幸せな女性を見ると嫉妬から不幸にさせられる、と言い伝えられている。

どんな時代も男と女は愛と憎悪が紙一重だ。

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