雛人形にまつわる不気味な風習(高知県) | コワイハナシ47

雛人形にまつわる不気味な風習(高知県)

以下の話は、伝聞につき詳細に不明瞭な部分がある。

地名や方言などに若干の補足を加えている旨を、あらかじめご了承願いたい。

「……んだい、吃驚しちまってよお」

その会話をDさんが聞いたのは旅の途中、ローカル線の車内でのことだった。

ボックス席でひとり車窓を眺めていると、背後の席に座っている、連れ合いとおぼしき男たちふたりが大声で喋りはじめたのだという。

「ほれ、大丸とこの佐藤よ」

「矢畑でねくて、大丸のほうか」

「んだい」

ご当地訛りは耳に心地よかったが、余所者のDさんにとっては聞きとり難くもあった。それでも、会話に登場したのが屋号らしいということだけはなんとか把握できた。

おなじ苗字が多い場合は、屋号で区別するんだよな……かつて訪ねた集落を思いだし、感慨にふける。そのあいだにも、男たちの声はどんどんと喧しくなっていった。

「ひなめんちを止やめたんでなんもかも駄目んなったち、大丸の大姉コは言うんだいな」

「駄目って、なにが駄目よ」

「家がよう。ほれ、大丸んとこの長男が亡くなったぜや」

「ああ、貯水池で死んだぜな。溺れとうか」

「違うが。池の緑な水、がぶがぶがぶがぶ飲んで死んだわ」

「なんで飲むが」

「知らんち。消防団で行ったときはもう死んどったぜや。笑っとうみてえな顔で」

「なんで笑ってんが」

「知らんち。お前めィ、葬儀のすぐあと次男と嫁コが死んだァ憶えとうか」

「ウチの嬶が葬式行ったいな、俺ィはヘルニアで寝てやんぜ」

「嫁コ、頭に釘打って死んでい」

「なんだよお、釘ィ金槌で自分の頭さ打ったんが」

「逆ぜわ」

「逆て」

「柱に刺さってる釘さ頭ァ何遍も何遍も打ちつけたんだわ」

「……次男も、釘か」

「次男は普通だい」

「普通て」

「普通は普通よ。普通に首吊って死んだぜな」

ほおっ、と聞き手の男のため息が聞こえたと同時に、電車が速度を落とす。

語り手の男が、咳をひとつ鳴らした。

「親父、大爺……大丸んとこァ、みんな半年で死んだわ」

「全部……ひなめんち、か」

「大姉コは、その所為せいだち言うんだいな」

「しっかしなあ」

聞き手が再び、ほお、と息を吐く。その声を聞きながら、Dさんは思いもよらぬ展開に動機を早めていた。

いまの話は、いったいなんだ。

理解できなかった方言の虫食いを頭のなかで埋める。

ひなめんち、とはなんだろうか。伝統行事だろうか。それともメンチというからには、郷土料理の一種なのだろうか。

ならば「止めた」とはどういうことだ。

考えているうちに電車が無人駅へ停まる。背後で、男たちの立ちあがる音が聞こえた。

「しっかしなあ」

と、自分の席を横切って降車口へ向かう男が、先ほどとおなじ台詞を漏らしてから、

「雛人形ぜぇんぶの両目に針を刺すなんて風習、他所でもあんのかい」

驚きに座席から腰を浮かせて男たちの姿を追ったが、顔は見えなかった。

ホームを降りていくふたつの背中が、あるばかりだった。

「……だから、たぶん〈雛目打ち〉だと思うんですよね。ただ……どこを調べてもそんな風習は載っていないんです。私は、彼らにたぶらかされたんでしょうか。いったい」

この不気味な話は、なんなんでしょうか。

Dさんはすべてを語り終えると、まるで流れる風景でも見つめているように、窓の外へ視線を注いだ。

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