謝罪 見えてしまう男(東京都) | コワイハナシ47

謝罪 見えてしまう男(東京都)

「どうなんでしょうね、俺は自分の目ン玉か脳ミソがおかしいだけだと思ってますけど」

不貞腐れた口調でそう吐き捨てたのは、都内在住の青年、Q君。冒頭の台詞は、彼の持つ能力……いわゆるところの〈見える〉力に対しての自己評価である。

「だって、居酒屋で朝まで働くようになって以降ですから。おかしなモノが見えるようになっちゃったの。誰でも寝不足や神経衰弱を疑うでしょ」

あくまで懐疑的な彼をなだめて、私は詳細を聞いた。

Q君が〈見える〉のは、きまって深夜アルバイトの帰り、通勤ラッシュにまみれた朝のホームなのだという。しかも、普通に電車が運行している状況ではない。

「ジンシン。つまり、誰かが線路にダイブしちゃった直後にかぎられているんですよ」

彼が利用する駅は都内でもよく知られた〈自殺の名所〉である。月曜日や連休明けなど人々が憂鬱を抱える朝には、頻繁にこの駅を起点としてダイヤが乱れる。そこへ不幸にも出くわすと、Q君は〈見てしまう〉のだそうだ。

「って言うとみんな、けっこうエグい姿を想像するんですよ。ゾンビみたいなグチャドロ男がさまよってるとか、まっぷたつになった血まみれ女が這いずりまわってるとか」

ないですから、と彼は断言する。

Q君いわく、〈ヤツら〉のほとんどは男性で、生前とおなじスーツ姿らしい。ただひとつ違うのは、その姿がうっすらと透けていること。

「だから一発でわかるんですよね。なんつうか……生命を搾るだけ搾りとられた、残りカスみたいな雰囲気なんです」

そして、半透明なサラリーマンのなかで、この世を恨むようなそぶりを見せる者は、九割九分いないのだと彼は続ける。

ほぼ全員が、お辞儀をし続けているのだという。

苛立つ群衆に、申し訳なさそうな顔で頭を下げ続けているのだという。

最近は目撃する頻度が増えている、と忌々しげに言ってから、彼は「でも……たぶん錯覚なんですよ」と、はじめと同様の主張をくりかえした。

なぜ、そこまで己の特性を疑うのか。

どうして自らの能力を肯定しないのか。

そう訊ねようとした矢先、はからずも彼の口から、私の疑問に対する答えがぽろりと飛びだした。

「だって……あんな悲しい光景、本当にあって良いわけないじゃないですか。だから俺、自分のアタマが変なんだって思ってるんです」

そうでも思わないとやってられないんです」。

怒りの理由を知り、私はもうなにも言えなくなった。

彼は今日も、朝のラッシュに逆走しながら生きている。

止まる電車に憤る人々へ憤りながら、お辞儀をするものを見つめ続けている。

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