踊人 薄い体の人らしきモノ(宮城県) | コワイハナシ47

踊人 薄い体の人らしきモノ(宮城県)

前回の話
実話 くねくね(四国)

はじめまして。ラジオ、いつも楽しく拝聴しています。

実は私も不思議な話が大好きで、ことあるごとに人から教えてもらったりしています。収集というほど熱心ではないのですが、なかでも印象的だった話を今日は書いてみます。

Aという人物から聞いた話です。

彼は二〇〇〇年の春からおよそ一年間、宮城県の県道沿いで〈もぐりの古本屋〉をやっておりました。〈もぐり〉とあえて言ったのは彼が古物商許可証も取得しておらず、当然警察へも届けぬまま営業していたためです。実は、私も同じころに古本屋を開業しており(もぐりではありません、念のため)ふとしたきっかけで知りあったのです。

Aは古本屋になる前、サラ金の取り立て屋だったそうです。要は何度も警察のご厄介になっていたため、古物商の許可申請はおそらく却下されるだろうと考え、もぐりの営業をしていたようです。なぜそんな人物がロクに儲からない古本屋をやろうと思ったのかは、わかりませんが。

彼の店は二階建ての古い一軒家でした。ずいぶん安い賃料で借りたらしく、一階の壁という壁を大家に断りもなくぶち抜き、店っぽく改装したとの話でした。もっとも家自体がかなり老朽化しており、いつ取り壊しになってもおかしくないような有様でしたから、彼の行動はある意味で理にかなっていたのかもしれません。

私がはじめて彼の店を訪ねたときは「家そのものが溶けかかっている」という感想を持ちました。すこし歩いただけで床が沈み、二階へあがる階段は抜け落ちそうな具合だったのです。

いまとなっては彼があの家に心惹かれたのも、これからお話しする事柄と無関係ではなかったような気がします。

さて、Aは利益が第一という徹底した合理主義の人間でしたがそのくせ変に凝こり性のようで、商品の充実にはとてもこだわっていました。仕入れにも熱心で、ビラまきや看板設置などといった〈もぐり〉にはあるまじき積極性を発揮しており、見ている私のほうが「いつ警察にばれるやら」と冷や汗をかいたものです。

そんな成果が実ったのか、ある日彼のもとに古本の出張買取を依頼する一本の電話が入りました。ところが、ここで奇妙なことが起きます。

電話の主は「事情があるので、午前三時に来てほしい」と言うのです。

当時、夜の買い取りはそれほど珍しくありませんでした。やむをえぬ理由での引っ越し、つまりは夜逃げを計画している方に多いケースです。金目の物を売りさばいておこうと考えるのでしょう(ちなみに現在そういう依頼はまるでなくなりました。ネットの売買が普及した影響でしょうか)。それにしたって午前三時とは、いくらなんでもありえません。普通であれば、怪しすぎて断るところです。

ところが、Aはその依頼を請けたのです。

そこにも、彼なりの合理的な理由がありました。夜逃げなどの場合、買い取りの金額で揉める可能性が低いのです。つまり、古本屋にとっては安く仕入れる絶好の機会なのです。

そんなわけでAは依頼を承諾し、電話の相手に住所を聞きます。ところが、指定された場所はおなじ市内でも土地勘に乏しい地区で詳細が皆目わからなかったのだそうです。それでも、彼は諦めませんでした。

「あらかた位置は聞いたし、目印になりそうな建物でも見つければそのうち着くだろう。迷ったときはコンビニあたりで聞けば良いさ」

そんな算段で、彼は奥さんを助手に伴って出発したのです。

誤算でした。

指定された地区周辺にコンビニの類はなく、夜中とあって建物もほとんど見えません。結局、余裕をもって一時間以上前に到着する算段で出発したにもかかわらずAは約束の時間を過ぎても、住宅街をぐるぐるとまわっていたそうです。

そうこうしているうち、Aは尿意をもよおしてしまいます。

いっこうに見つからない目的地と耐えがたいほどの排泄欲求。焦りながらハンドルを握っていたその最中、彼は家と家にはさまれた空き地を発見したのだそうです。

「ちょっと車で待ってて」

睡魔と闘う奥さんに声をかけると彼は急いで車を降り、空き地の隅で用を足しました(褒められた行為ではないのですが、十五年以上前の話ですのでご容赦ください)。

ひと息ついたら、また捜索再開だな。

問題のひとつを解決し、すっきりした心持ちで車へ戻ろうとした直後、彼は空き地の奥に人影を見つけます。

そこにいたのは、〈全裸の人間らしきモノ〉でした。

〈らしきモノ〉というのは、彼の言葉です。そう、人影は生身の人ではなかったのです。その証拠に、〈それ〉は全身が銀色に輝いており(彼は「銀紙みたいだった」と説明し、一緒にいた奥さんも「使う前のアルミホイルのようだった」と証言しました)、おまけに

ひどく薄っぺらだったらしいのです。

Aが呆気にとられるなか、銀色の薄い人は彼のことなど眼中にないかのごとく、手足を上下に震わせながら、くねくねくねくねと踊っていました。

ふと見れば、踊る人影は空き地だけにおさまらず周囲の家の屋根や頭上にもたくさん浮いており、どれも一心不乱に踊っています。

慌てて彼はそこから逃げだすと、ほうほうのていで逃げ帰ったそうです。

私がその話を聞いたのは、彼らが〈踊る銀人間〉を見た数日後のことです。

もっとも彼らの話は曖あい昧まいにすぎて、まったく要領を得ないものでした。遭遇した場所も「家があって畑があって、納屋か倉庫があって」と、まるで明瞭りしません。

それでもなんとか自分の目で確認したいと考えた私は、彼らの拙い説明からおおよその場所を割りだし、明るいうちに一度、彼ら夫妻が遭遇した時間に近い午前二時ごろに一度、合計二度ほど該当する場所を訪れてみました。しかし、当然そのようなものには出会えず、説明のあやふやさもあって、彼らの言葉そのものを信用できなくなってしまいました。

その後、Aは古本屋をたたみ風俗系の仕事に鞍替えしたため私とも疎遠になってしまい、いまではその生死すら確認できません(店に関連した奇妙な話もふたつほどあるのですが、話が逸れるので別の機会にお便りします)。

さて、「信じられない」と感じたにもかかわらず、どうして私がこの話をお知らせしているのか、不思議に思われたかもしれません。実は、れっきとした理由があるのです。

Aの話を聞いてから十年以上が経ったころ、今度はBという男性から彼自身の体験を聞いたのです(ちなみに、AとBはまったく接点がありません)。

Bという人間は私のちょっとした知人で、清掃関係の業務に就いています。

私や彼が暮らすM県は、ご存知のように震災で大きな被害を受けました。そして、当時彼は避難所から出る膨大なゴミの処理を担当していたのです。

ある早朝、彼はいつもどおり同僚と一緒に、収集車で避難所をまわっていました。まだ暗い夜明け前、おまけに瓦が礫れきの山があちこちに残っている時期です。車はそれらを避けるように、道なき道を走っていたそうです。

ある海岸の近くを走行していたときでした。

路上に人影を見つけた同僚が、スピードを落とすよう指示しました。

ところが、それがどうにもおかしいのです。

人影は全裸で、白黒フイルムのように色がない。おまけに身体には厚みがなく、紙ではないかと思うほどに薄かったのです。

〈それ〉は、ひとりではありませんでした。

周囲を見ると、おなじように薄い人影が大勢立っているではないですか。彼ら(彼女らかもしれませんが)は、やはり全員裸で、くねくねと浮いたり沈んだりしているかのように、奇妙な踊りを踊っていたそうです。

Bからその話を聞いたのは、震災から一年以上が経ったころでした。私も店を長いこと閉めており、彼と出会う機会がなかったのです。

私はすぐにAの話を思いだし、非常に興味をおぼえました。目撃したおおよその場所についても、土地勘があったために把握できたのです。

しかし、目印になるようなものがないうえ一年のうちに瓦礫がすっかりと取り除かれ、道も整地されてしまったために、「ここだ」と断言するまでには至りませんでした。

結局、私はなにも発見できず、すごすごと尻尾を巻いて帰ったのです。

その後、Bに何度か聞きなおしましたが、日が経つにつれ彼の言葉もあやふやになり、最後は「もう面倒くさい」と口をつぐんでしまいました。彼にしてみれば震災当時の厭な記憶も呼び起こさなくてはいけないのですから、積極的に話したがらないのも無理はありません。

それでも私は気になるのです。

無関係なふたりが(厳密には四人ですが)見たのは、細かな違いはあるものの、おなじモノではないかと思うのです。そんなモノが自分の身近に存在する。そう考えると、私は怖いながらも興味をそそられてしまうのです。

いったいこれは、なんなのでしょうかね。

銀色、もしくはモノクロームの、薄い身体を持つ、人の形をしたモノ。空き地や屋根、空中や夜明けの海岸沿いに出現し、手足をふりまわしながら踊り続ける異形の集団。

これは、N君が幼少時に見たという〈案山子〉とおなじものではないのか。

つまり、〈くねくね〉ではないのか。

N君の体験を聞いてまもなくこの話が届いたのは、本当に単なる偶然なのか。

もしも偶然ではないのだとしたら、それは、いったい。

答えを求めなくてはなるまい。

虚構が実像を結んだその場所に、行かねばなるまい。

帰ってこられるかどうかは、解らないけれど。

シェアする

フォローする