藻南公園の花魁淵(北海道札幌市南区) | コワイハナシ47

藻南公園の花魁淵(北海道札幌市南区)

札幌の南区にこの公園はある。

その中に花魁淵と呼ばれる場所があり、水難事故や身元不明遺体が上がったことでも知られている。

実際に花魁が身を投げた場所という訳ではないらしいのだが、花魁のように着飾った女性が世を儚はかなんで命を絶ったという伝説が残っている。

また公園のトイレにも自殺者が出ており、公園全体が独特の空気を醸し出している。

とある夏の日、安藤さんは花魁淵にいた。

近くでは家族連れが楽しそうにしている。

皆、涼を求めてきているのだろう。

水量の少ない場所で、足を水に浸けている人も多く見られた。

(いい天気だな……)

安藤さんは岩場で寝転ぶ、うとうとして浅い眠りに落ちた。

ふと目を覚ますと、周囲に人がいなくなっていた。

まだ日は高い。

家族が帰るには早い時間と思えた。

まあ、こんな日もあるさ──とは思ったが、ほどなく違和感に気付く。

周りの音が聞こえないのである。

川のせせらぎ、風の音、鳥の鳴き声まで、一切聞こえない。

一人取り残されたような気になり、思わず立ち上がった。

見える範囲に人の気配はない。

が、視界の隅に公園の自然色とは異なるものが飛び込む。

恐る恐る渓流を覗き込むと、水死体が仰向けに浮かんでいた。

「ひっ……」

安藤さんはその場で腰を抜かした。

(そうか、この所為でみんないなくなったんだ)

恐らく、警察も到着するのだろうが、事情聴取などは面倒くさい。

ましてや、死体のすぐ近くでその状況を待ち続けるなどということは、途轍もなく気持ちが悪い。

ここは皆に倣って避難するのが良いだろう。

そういう結論に達し、その場から離れることにした。

一歩、二歩、三歩……、足を進める度に自分の異変に気付く。

自分の身体の動きがどんどんスローモーションになっていくのだ。

それに伴い、思考までもが緩慢になる。

(あれ、何で……、こん……なう……ご……き……に)

思考の停止と同時に意識が薄れた。

暗闇の渦に飲み込まれたように、安藤さんの記憶はそこでプツンと途絶えた。

ゆっくりと意識が浮上し、視界が少しずつ明るくなってきた。

しかし周囲は薄暗い。

どれほどの時間が経過したのか分からない。

混乱する眼前に浮かぶ、人の足。

(足……!?)

足から視線を徐々に上へ向けていく。

スーツを着ていることが分かる。

直立する姿勢、伸び切った腕、異常に長い首。こちらを見下ろしているような、それでいてどこを見ているわけでもない瞳は虚ろに宙を漂う。

反射的に身体が後退り、後頭部をコンクリートの壁にしこたまぶつける。

激痛とともに、自分が大便器の上にいることに気付いた。

「あ、ああー、ああぁあーーーー!!」

悲鳴を上げながら縊死いし体を押しのけ、走り出す。

そこからの記憶が曖昧になるが、いつの間にかハンドルを握り、車を走らせていた。

少し落ち着きを取り戻した頃には、自宅のリビングにいた。

出掛けたときの格好のままで、失禁もしたようでズボンが濡れていた。

時計の針は十九時を指している。

テレビを点け、ニュースを流しているチャンネルを探す。

今日見た、あの二つの死体はどうなったのだろう?

縊死体についてはぶつかってしまった。

その所為で、自分が犯人だと疑われたりしないだろうか?

ニュースでは一切報道されず、ネットを調べてもそれらしい事件事故は見つからない。

ただ、ネットでは過去の事件を拾うことができた。

水死体の衣服は、自分の見たものと同じである。

縊死体の詳細は不明だが、場所はトイレであった。

二つの事件事故は同じ日に起きたものではない。

ただ妙な符号に総毛立ち、縊死体にぶつかった感覚が蘇る。

その日から安藤さんは、この公園に近付くことはなくなった。

時間の渦に飲み込まれ、二度と帰ってこられないような気がするのだという。

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