平和の滝の異(札幌市手稲区) | コワイハナシ47

平和の滝の異(札幌市手稲区)

札幌市手稲区の住宅街を抜けると、平和の滝に到着する。

日中は家族連れが涼を求めたり、観光客が訪れたりしているのだが、夜になると空気が一変する。

何かと自殺の噂が絶えない場所で、滝での投身自殺や、駐車場に設置されたトイレでの焼身自殺の噂が特に有名である。焼身自殺のほうはトイレの内外で少なくとも二回は起きたそうだが、現在は焦げ跡も綺麗に修繕され、噂を窺わせる痕跡は見当たらない。

倉田さんがここを訪れたのはある夏の夜。

時刻は二十三時を過ぎた頃だった。

駐車場へ車を駐めようとしたが、小さな暴走族が集会を開いている。

下手に絡まれても面倒だ──と脇の道路でライトを消し、寝たふりをしてやり過ごそうとしていた。

『コンコン』

運転席の窓が叩かれ、見ると数人の不良がにやけている。

「お兄さーん、何やってるの?」

嘘を吐いて怒らせても面倒である。

大体、こんなところに深夜訪れる理由はそれしかないであろう。

「あー、肝試しっていうか、心霊写真を撮れないかなぁ、って……」

大爆笑された後、仲間を呼ばれた。

「お兄さん、ほんとにオバケがいると思ってんの?」

「つーか、一人で来るってキモくね?」

「友達いないの?お兄さん」

三十人弱の暴走族に言いたい放題に詰なじられる。

すみません、を連呼し、早く出ていってもらおうと考えたが、そうはいかなかった。

「よーし、寂しいお兄さんの為に、オバケの撮影に付き合うぞ!!」

気がいいのか、冷やかしなのかよく分からないが、ぞろぞろと族を引き連れて歩くことになった。

「で、何で便所を撮ってるの?」

倉田さんはトイレでの焼身自殺の話を説明する。

「へー、でもうちら、しょっちゅうここに来てんけど、オバケなんて見たことねぇよ?」

デジカメで一通り撮影した後、倉田さんは画像の確認をする。

半分くらいに光球オーブが写っていた。

「なになに、うちらにも見せてよ」

「すげぇ、人魂じゃん!」

一人が声を上げると、デジカメは奪い合うようにたらい回しにされた。

「兄さん、やるな!!つーか、これを撮ったからって何になんのよ?」

誤魔化しようがない為、倉田さんは本心を話した。

テレビ局や雑誌に送り、賞金を貰うつもりでいたと。

凄いのが撮れれば、取材にも来てもらえるかもしれないことを。

暴走族はテレビに食いついた。

倉田さんのデジカメを使い、あちこちを撮影しまくる。

そして頭をぶつけ合うような形で、画像の確認をしていた。

「この人魂しか撮れねぇのかよ、女のオバケとかヤベェの来いって」

苛つきながら撮影と確認を続ける族達。

いい加減に返してほしいと倉田さんが思っていると、一瞬静かになった。

「動いてね?何よコレ?」

彼らはデジカメを奪い合い、確認を続ける。

「微妙に近付いてね?」

何のことかさっぱり分からないので、倉田さんも確認しようと手を伸ばしたそのとき。

族は大きな悲鳴を上げて、デジカメを宙に放り出した。

アスファルトに叩きつけられ、嫌な音を出すデジカメ。

暴走族達は、我先にと自分の単車に向かって走り出していた。

──ドォウン!

突然、一台のバイクが火煙を上げて燃え上がった。

しかし暴走族は次々バイクに跨またがり、燃えるバイクに目もくれず走り去っていく。

倉田さんは一人その場に取り残され、暫く赤い炎を眺めていた。

漸く我に返り、大切なデジカメを拾い上げる。

壊れていないか動作確認をすると、族が撮ったと思える画像が見つかった。

中央に黒い人影のような物が写っている。

静止画であるのだが、人影だけがゆらゆらと微妙に動いているように思えた。

注目していると、少しずつ倉田さんのほうへ近付いてきている。

画面全体が黒く染まった瞬間、倉田さんは恐怖のあまりデジカメを放り出してしまった。

──カシャン。

アスファルトに転がったデジカメから、黒い人影が湧き出てくる。

ゆらゆらと動く人影はトイレの壁にもたれかかると、静かに消えてしまった。

付近には鼻腔にこびり付くような焦げた臭いが充満し、倉田さんは悲鳴を上げながらその場を立ち去った。

その場に残してきてしまったデジカメの中身が気にはなったが、回収する勇気が持てず、画像のその後の変化は不明のままである。

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