ビビリ神社の呪い(北海道函館市) | コワイハナシ47

ビビリ神社の呪い(北海道函館市)

函館市のある農道から左斜め方向に脇道を進むと、正一位石倉稲荷神社に辿り着く。

別名、ビビリ神社と呼ばれている。

ここは有名な心霊スポットで、大きな岩に触ると呪われる、老婆の霊に追い掛けられる、昔そこで飼われていた犬の霊に襲われる──など様々な心霊体験の伝承がある。

実際に野犬もいるので、現地に赴くつもりなら注意が必要だ。

財津さんはかねてより噂で聞いていたこの場所を訪れる。

本当は友人と来る予定だったのだが、ビビリ神社と聞いた友人は皆尻込みをする。

結局、たった一人で探索をすることとなった。

この付近は人気がない為、静まり返っている。

時折聞こえる野犬の声が、不気味さに拍車を掛けた。

砂利道をある程度進むと、噂の大きな岩に辿り着く。

財津さんは躊躇するも軽く触れてみた。

噂の通りなら、事故に遭ったり幽霊に取り憑かれるはずである。

だが、幽霊の姿は見えない。

ならばと、尻込みした友人に自慢すべく、岩に触っている写真を自撮りした。

そのまま奥へと進む。

すると突然懐中電灯の明かりが切れた。

完全な闇に包まれ、財津さんは方向感覚が失われる。

動揺する財津さんを取り囲むように、今度は周囲から砂利の音が聞こえてきた。

しかし全方位から近付いた音は一斉に止んだ。

目視では確認できないが、二メートル位先に何かがいるようだ。

闇の向こうから威圧されている。逃さぬ、という圧力に彼は捉えられていた。

走り出したいが、来た道が全く分からない。

かといって、このまま我慢しているのは非常に危険であると思えた。

(一か八か……)

走り出した財津さんだったが、何かに躓き大きくよろめいた。

咄嗟にしがみ付いた先──。

人の感覚があった。

大きく喉が鳴り、呼吸が止まる。

「あのー、どちら様でしょうか?」

自分でも変なことを口走っているのは分かる。

ただ、確認しないでいるほうが恐怖を増幅させる。

当然ながら何の返事もない。

そーっと掴んでいる手を動かす。

間違いなく、人間である。

柔らかさと胸の膨らみから、女性と思われる。

痴漢だ何だと騒がれるほうがマシであるが、一切の反応を示さない。

財津さんの中で、嫌な予感がどんどんと膨らんでいく。

どのタイミングで手を放すべきかを逡巡していると、突然その〈人〉は消えた。

何処かへいなくなったのではない、瞬間的にその場から消え失せたのだ。

掴みどころをなくした手は宙を泳ぐ。

すると、握りしめていた懐中電灯が突然点いた。

これで帰れる、と安堵した瞬間、周囲から再び砂利を蹴り上げ駆け寄る音が聞こえた。

その音は、先程と同じく少し先で収まる。

恐る恐る懐中電灯で様子を窺う。

誰の姿も見えない。

ただいる……間違いなく、見えない何かが彼の周囲を取り囲んでいる。

それだけははっきりと分かる。

──ジャッ。

例の音が、彼の背後から一歩近付いた。

反射的に明かりを向けるが、闇を映し出すだけであった。

──ジャ、ジャッ。

今度は右方向から近付く音がする。

そちらにも明かりを向けると、一気に動き出した。

──ジャ、ザッ、ザザザザッ……。

財津さんの身体を見えない何かが圧迫する。

満員電車よりも窮屈な状態は、本気で彼の身体を押し潰そうとしているように思えた。

呻き声すら満足に上げられない状態で、呼吸もままならず、意識が遠のいていく。

気が付いたときには、彼は大きな岩にもたれかかっていた。

辺りはまだ暗く、朝を迎えてはいないようだった。

何かが吹っ切れたのか、自分でもそれと分かる程に穏やかな気持ちであった。

先程まであったはずの恐怖など微塵も感じない。

全てがどうでもいいとすら思える。

無意識なのか、帰り道をとぼとぼ歩き始めた。

少しして気が付くと、彼の両脇を白く光る犬が付いて回っていた。

それすら何とも思わず、車を駐めておいた場所まで辿り着いた。

車に乗り込み、運転席の窓から外を見ると、二匹の犬はお座りをしていた。

まるで見送りをしているようだな、と思いながらも車を走らせた。

──目が覚めたときには病室のベッドにいた。

走行時の記憶は一切ない。

ただ全身が思うように動かず、計器類が近くで音を立てていることから事故を起こしたのだろうと想像できた。

(まあ、いいか……仕方ない……)

そう思いながら眠りに就いた。

長い入院生活を終え、財津さんは社会復帰する。

ただ、仕事では何かとトラブルが続いた。

全てが人間関係によるものだが、原因は彼の心境の変化にある。

諦観の念とでもいうのだろうか、現実の売り上げや誰がどうしたという話の全てが煩わしい。

当然、取引先からのクレームも相次ぐ。

(全てがくだらない。癒してくれるのはこの子達だけでいい)

そう思いながら、二匹の犬の頭を撫でていた。

……実は入院生活の途中から、彼の周りに二匹の白い犬がいることに気付いていた。

勿論、現実のモノではない。

あの場所で見た犬である。

彼は何故か素直に受け入れ、可愛がるようになっていた。

触れると質感や毛並みが感じられる。

彼岸と此岸しがんの狭間で生きているような感覚であったという。

そんな生活が半年も続いたある朝、突然彼の前から犬達の姿が消えた。

犬達を全ての拠り所にしていた彼は仕事を無断で休み、ビビリ神社へ車を走らせる。

あちこちを探し回るが、犬達の姿はない。

大岩にもたれながら一休憩を入れる。

(どうしよう、見つからなかったらどうしよう……)

ある種の強迫観念に囚われていた。

そんな中、周囲からの視線を感じた。

見渡すが、誰の姿も見えない。

(この流れ……また助けに来てくれる)

財津さんはそう思った。

間もなく、期待通りに二匹の犬は彼の前に姿を現す。

と同時に、周りの気配も消えた。

「良かった……。さぁ、一緒に帰ろう」

そう呼び掛けるが、一定の距離を保ったまま、犬達は近付こうともしてこない。

彼のほうから歩み寄ろうと一歩踏み出すと、突然二匹の犬は遠吠えをした。

『ウオオオオォーーーーン!』

爆音としか表現できない音量。

耳からではなく、頭の中で響き渡る声は酷い頭痛を伴い、思わずその場に蹲った。

一分程でその音は収まる。

顔を上げると犬達の姿は消えていた。

そして急に我に返った。

(何でここにいる?俺はあの犬に何を期待してたんだ?それより、早く逃げないと……)

その場から駆け出し、車に飛び乗った。

そして、再び事故を起こす。

財津さんは他の車がいない車線を飛ばしていた。

仕事のことも思い出し、連絡をしないと──と思った瞬間、大きな衝撃とともに車ごと身体が揺れた。

目の前の何もない道路に、トレーラーの後部が蜃気楼のように浮かび上がってきた。

間もなく、運転手が降りてきて、怒りをぶつけてくる。

(身体が痛いな……)

そう思いながら意識を失った。

気が付くとまた病室のベッドである。

前回ほどの怪我ではないが、胸部骨折と打撲で再びの入院が決まった。

そして退院を待たずに、財津さんは職を失う。

無断欠勤、度重なる事故、仕事のトラブルと会社側の理由は十分であった。

現在の財津さんは新しい職を見つけ、生き生きと働いている。

ビビリ神社に近付くことは二度とない、と断言する。

「尻込みして正解なんですよ。あそこは止めておいたほうがいい……」

彼は最後にそう語った。

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