西岡公園の音(北海道札幌市) | コワイハナシ47

西岡公園の音(北海道札幌市)

札幌市の西岡公園には旧陸軍が使用した貯水場がある。

通称、西岡水源地で、赤い屋根の取水塔が登録有形文化財にもなっている。

ここでの噂は水面から無数の手が伸びていたとか、取水塔に人影が見えるというものが多い。

少なくない自殺者がおり、また数多くの心霊写真が撮影された場所でもある。

松田さんは散策でこの公園を訪れていた。

日差しが強くなる初夏、涼を求めて水源地を回っていた。

自然を愛で、水面に疎らに浮かぶ野鳥に癒される。

持参したドリンクボトルで休憩を取りながら、何げなく取水塔を見やる。

(おっ、何かの作業をしているのか……)

取水塔の窓に人影が映る。

ぼんやり見ていたら、右手の水面から水の撥ねる音がした。

魚でも撥ねたのだろうか?

そこには波紋の広がる水面があるだけで、魚の姿などは見えない。

また取水塔に目をやると、人影が見える。

(一体、何の作業をしてるんだろうなぁ?)

そんなことを考えていたところ、また水面から音がする。

今度は複数の音が聞こえることから、大量の魚が撥ねているように思えた。

音の聞こえた先では無数の波紋がぶつかり合っているだけで、やはり魚の姿などは見えなかった。

(結構大きな音だったけど、鯉みたいなのがいるのかねぇ?)

今度の興味は水面に変わる。

じーっと眺め続けるが、特に変化は起きない。

十分程、その状態が続いた。

──バシャーン!!

大きな水音が取水塔のほうから聞こえた。

目をやると、取水塔の手前に大きな波紋が広がっている。

何が飛び込んだのだろう、と暫く眺めていたものの、一向に上がってくる気配がない。

(そうだ、あの人なら何か見たんじゃないか?)

取水塔の人影に視線を移すと、窓際に立って微動だにしていない。

声を掛けてみるべく、取水塔に近付こうとした瞬間──。

真っ黒い人影は取水塔の壁をすり抜けて水面に落下した。

大きな音とともに広がる波紋が、錯覚ではないことを物語っている。

それに伴い右手の水面からは、水を叩く音が大量に聞こえる。

反射的に見やると、真っ白い手首から先だけのモノがバシャバシャと水面を叩いていた。

その数はゆうに二十を超えていただろう。

半分抜けかけた腰に力を込め、必死でその場を後にした。

「後で気付いたんですが、取水塔の中まで見えていたんですよ。それなのに、どうして真っ黒い人影を人間だと思っていたのか……」

松田さんの散策リストから、この公園は外された。

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