熊石キャンプ場で待つモノ(北海道八雲町) | コワイハナシ47

熊石キャンプ場で待つモノ(北海道八雲町)

道南の八雲町に熊石キャンプ場がある。

海が近く温泉施設もあることから、夏場は賑わいを見せている。

そこから十数分も歩くと、吊り橋のある場所に辿り着く。

その周辺では数多くの心霊体験が報告されている。

松村さんは地元民である。

友人達がお盆に伴い帰省するので、キャンプをすることにした。

高校を卒業してから数年ぶりに集まった仲間と大いに盛り上がる。

肉を焼き、酒を飲んでいると既に深夜になっていた。

「そろそろいい時間だから、行くか!?」

肝試しという松村さんの提案に乗ったのは四名。

他の仲間は一杯やっているから、と断った。

キャンプ場から温泉施設に向かい、五分ほど歩く。

それから温泉施設の横にある獣道のようなところを下っていく。

周囲に街灯はないので、心許ない懐中電灯の明かりだけが頼りになる。

酒が入っている為テンションは高いのだが、暗闇の中を一列に並び歩いている状態である。当然進む速度は遅くなっていた。

「マツ、まだかよ?」

「面白い場所へ行くんだから、我慢しろって!」

程なくして、先頭の松村さんの足が止まった。

懐中電灯の光が吊り橋を映し出している。

「マジかよ、ここに吊り橋なんてあったのかよ」

皆のテンションは一気に上がり、我先にと吊り橋に駆け寄った。

酒の力もあり、揺らすなどの悪ふざけを楽しむ。

「馬鹿、あぶねぇって」

そう言いながらも笑いが絶えない。

皆が満足した頃を見計らい、松村さんが口を開く。

「お前ら、幽霊って見たことないだろ?」

当の松村さん自身も見たことはないのだが、得意そうに話す。

──ここの吊り橋の最後まで行き、橋からは降りないで戻ってくる。

途中で振り返るのは絶対禁止。

橋の中央まで戻ってきたら足を止め、左肩越しに振り返る。

何かが見えるまで、その体勢を維持する、と。

皆は半信半疑のようだったが、反応は悪くない。

「じゃあやるか!」

勢いはあったのだが、いざやるとなると一人ずつでは怖い。

仲良く吊り橋を渡り始めた。

「ところでマツ、何でお前がそんなこと知ってんの?」

「あー、先輩から聞いたの。一〇〇%だってよ」

「マジでぇ!?」

必ず見る、と言われると足取りも重くなる。

とは言うものの、ビビっている姿を仲間に見せたくない。

それと気付かれないよう牽制しつつ、吊り橋の端まで到達した。

踵を返し、中央を目指す。

「ちょ、ちょっとぉー」

背後からケンジの情けない声が聞こえた。

「何だよ、ビビってんのかよ?」

誰も振り返らないで返事をした。

「いや、俺が一番最後だろ。でもよ、誰か付いてきてるんだって」

その言葉に全身が粟立つ。

「んなわけねぇーって。もうすぐ真ん中だから、それまで待ってろって」

強がる言葉が震えた。

中央に辿り着き、皆深呼吸した。

相変わらずケンジは動揺しているようだったが、その確認も間もなくできる。

「じゃあ行くか、せーのッ!」

左肩越しに背後を見る。

「うぁあああああ!!」

一拍置かずに友人達は悲鳴を上げて走り出した。

何が起きたのか分からないが、松村さんもとりあえず後に続こうとする。

──っッッ!

ところが、強い力で両肩を掴まれ動くことができない。

真後ろから、シャツも引っ張られている。

しかし、掴んでいるモノの姿は見えず、松村さんはパニックに陥る。

少し離れた前方では、懐中電灯の明かりが酷く上下しながら遠ざかっていく。

ケンジに持たせたのは失敗だった。

その所為で、松村さんは暗闇に一人取り残されることになったのだ。

松村さんの右頬に息が当たる。

しかし、その顔は見えない。

姿が見えないのに、感触だけは十分に伝わる。

この状況は松村さんの精神を限界まで追い込んだ。

気付けば、酒宴で盛り上がっていた仲間に取り囲まれていた。

松村さんを残し、テントへ戻ったケンジ達から話を聞き、心配で駆けつけたのだという。

もう掴まれている感覚はない。

歩くこともできそうだ。

友人達と一緒に、テントまでゆっくり戻ることにした。

「マツよぉ、あいつら出たって言ってたけど、ほんとに出たのかよ?」

……出たとも言えるし、出たとも言えない。

「で、びっくりして気絶したのか?」

……いや、精神的に追い込まれたというか。

そう反論をしたいのだが、松村さん自身の頭が整理が付かない。

テントまで戻ると、逃げ帰った連中が大騒ぎしていた。

「おぉマツ、やばかったよなあの幽霊!!」

反射的に苛ついて、ケンジの頭を叩いた。

そして、冷静になる。

……幽霊?

どうやら松村さんを除いた四人は、皆揃って女の霊を見たらしい。

真っ白いワンピースを着た髪の長い女性。

最初は無表情だったが、一瞬の間を置いて鬼のような表情に変化した。

そして叫び声を上げながら追い掛けてきたので、怖くなって逃げ出したのだという。

松村さんは女の姿も声も認識できていない。

「はぁ?お前、何も見てないのに気絶してたのか?」

皆が揃って馬鹿にするように笑う。

「いや、そうじゃなくて、この辺とか掴まれてたし、息を掛けられたりで大変だったんだって」

説明しながらシャツをたくし上げると、笑いが一瞬で静まる。

松村さんの身体には、痣のように変色した手形が幾つも残されていた。

特に両肩の手形は女性の大きさではない。

指先に当たる部分からは血が滲んでおり、相当な握力で掴まれていたと思われた。

結局、朝を迎えるまでの間、決して一人にならないよう、全員固まってテントの外の闇を窺いながら過ごした。

他のキャンプ客が起き始めると、そそくさとテントを回収し、逃げるように立ち去った。

松村さんの身体に残った手形は、一週間ほどで消えた。

「あそこにいたのは一体だけじゃないと思うんだ」

と松村さんは熱く語った。

シェアする

フォローする