支笏湖の廃墟(北海道) | コワイハナシ47

支笏湖の廃墟(北海道)

札幌から近い観光地としても知られる支笏湖。

雄大な自然と穏やかな湖面は見る者を癒してくれる。

その支笏湖に向かう道中、草木に囲まれた場所を進むと一軒の廃墟がある。

かつては宿泊施設として利用されていた建物なのだが、数多くの心霊体験が報告されている。

宮木さんはこの廃墟の噂を聞いていたのだが、詳細な住所は分からなかった。

助手席に友人のマサトを乗せて、ドライブがてらに探してみようと出掛ける。

時刻は二十三時を回った頃、支笏湖へ続く山道を走行していた。

マサトは助手席の窓からじーっと外を見つめ続けていた。

「なあ、全然それらしい建物が見えないんだけど」

「いいから黙って見てろって」

あるカーブを過ぎたとき、道路の端に駐まっている一台の車を見つけた。

「ここじゃねぇか?」

しかし、その場所からは廃墟らしきものは見えない。

その車の前方へ同じように停車させ、辺りを窺う。

こんな時間に山道で車を駐めて何処に行くというのか。

そう考えると、廃墟への道はここしかないと確信した。

懐中電灯を手に藪を漕いで、獣道とすら言えないような場所を五分ほど進むと、少し開けたところに辿り着いた。

その先に廃墟はあった。

先程の道路からは低い場所になる為、草木が邪魔をして外観が見えなかったのだろう。

廃墟の前に辿り着くと、中では小さな明かりが動き回っていた。

やはり先程の車は心霊スポットに来た先客のものであった。

早速、廃墟をバックにして、二人で自撮りをする。

「おい、何か写ってるか?」

画像を拡大させながら霊の痕跡を探してみた。

玄関付近で光る明かりは懐中電灯と思える。

それ以外には、宮木さんのすぐ横にもっと白っぽい光源が一つ。

そして二階の窓には真っ白い手形が映っていた。

画像と建物を見比べてみると、写っている手形はとんでもなく大きいものになる。

「やっぱここはやばそうだな」

そう言いながら、二人はにやけてしまう。

本当の霊体験をすることで友人達に自慢したいという思いが強かったのだ。

意気揚々と玄関の中に入る。

中から悲鳴が聞こえたが、それは宮木さん達に対してのものだった。

先にいたのは若いカップルだった。

心霊スポットではよくある意気投合をして、建物の探索を一緒にすることになった。

「風呂場ってありました?」

カップルに案内され、浴場に進む。

噂ではここで自殺した女性がいて、必ず霊体験ができるという。

湯船であった場所に四人は集まり、懐中電灯の明かりを消した。

多少の月明かりで、ぼんやりとではあるが青白く周囲が浮かび上がる。

「何か見たり聞いたりしたら、そっちを照らすこと」

息を潜め、四人は身を寄せ合った。

『カチャン』

音に反応して懐中電灯は点けられた。

しかし、光の線は真逆の二方向を指し、どちらにも異常は見られなかった。

「もっと集中して気配を探ろう」

小声で作戦会議は行われ、また明かりは消された。

『カチャン』

ガラス片が落ちたような音がした。

即座に点灯される明かりは、また別方向を指していた。

それから三十分程の間に、五回も音が聞こえた。

どれも明かりの示す方向は別で、特に異常はなかった。

「もっと音を聞いたほうがいんじゃない?毎回、違うじゃん」

マサトが苛ついているのが暗闇の中でも分かる。

しかしカップルも譲らない。

自分達に聞こえた音源は間違いなくこの方向だったという。

宮木さんは三人を宥めながらも、マサトと同じことを考えていた。

そこで疑問が浮かぶ。

通常の浴場は音が反響しやすいのかもしれない。

ただ、ここは荒れ果て、ガラス窓も粉々に割られている。

先程からの音も反響のような響きは感じられない。

では何故、近くにいるのにこうも違う方向を指すのだろう。

そんなことを考えていると、また音が鳴った。

懐中電灯の光の線は初めて交わった。

照らした場所を全員で確認する。

他と同じようにガラス片が散らばっている。

ただ、二十センチ大の赤黒い円があった。

「これ……血か?」

「どうだろう?」

周囲を探してみたが、血痕のような痕跡は他にはない。

天井から染み出たものかと明かりを照らしてみるが、特に異常は見受けられなかった。

「いんじゃない、いんじゃない。色々と波長が合ってきた感じがするし」

マサトは嬉しそうに湯船に戻っていく。

しかし、カップルは気まずそうに切り出した。

「もうそろそろ、僕らは帰ろうと思うんですが……」

「えー、なんでよぉ、折角いい感じになってきたじゃん」

マサトのゴリ押しに負け、後五回音が鳴ったら終わるというルールができた。

『カチャン』

二つの懐中電灯は再び同じ方向を示す。

その場を確認すると、先程よりも若干大きめの赤黒い染みがあった。

位置関係としては、先程の染み、今の染み、少し離れて湯船、となる。

「もう帰らせてください!」

カップルの女性が泣き出してしまった。

一度、周辺は確認している。

それなのに僅かな時間で新しい染みができたとなれば、当然のことだろう。

「ダーメ、五回って約束したじゃん」

マサトは一人でテンション高く浮かれている。

二つのグループの温度差は相当なものだった。

再度湯船に戻り、息を殺す。

しかし、女性のグズりは収まることはなかった。

『カチャン』

また音に反応して懐中電灯は点いた。

どんどんと湯船に近付いているようで、そこにも新たな染みができていた。

(あれ……?)

新しい円は、染みというにはあまりにも生乾きすぎるように見える。

宮木さんが落ちているガラス片でなぞってみると、赤く線が延びた。

「もうヤダぁーー!!帰る、絶対帰るー!!」

女性がそう叫んだとき──。

彼らの背後、湯船の遠く先から音が近付いてきた。

『カチャ……カチャン……カチャカチャカチャカチャ』

反射的に懐中電灯で照らすが何も見えない。

しかし、音はどんどんと加速しているように思えた。

彼らの目の前まで音が近付いた瞬間、懐中電灯の明かりは一度消えた。

そしてすぐに点灯すると、目の前には見知らぬ女の顔があった。

顔の大きさは通常の三倍ほどで、縦長に伸びている。

長い髪から覗く目はあらぬ方向を捉え、口は何かを叫ぶように大きく開かれていた。

「いやぁあああああ!!」

悲鳴を上げながら走り去っていくカップル。

驚きの余り一瞬出遅れたが、宮木さんとマサトも後に続くように逃げ出した。

建物の外に出た瞬間、足が縺れてマサトが転ぶ。

放置しておく訳にもいかず、すぐに助け起こして車を目指した。

漸く車を駐めたところまで辿り着くと、カップルの車は猛スピードで走り出した。

宮木さんもすぐにエンジンを掛けようとするが、何故かうんともすんとも言わない。

「馬鹿、早く出せって!やべぇって!」

「うるさい、やってるっての」

逸る気持ちを無視するように車は動かない。

マサトはきょろきょろと周囲を警戒しつつ、宮木さんを急かし続けた。

──ボォオオオン!

宮木さんの車の横を、立て続けに三台の改造車が走り抜けた。

峠を攻めにきていた走り屋だろう。

爆音を響かせながら遠ざかっていく。

すると突然、宮木さんの車のエンジンが掛かった。

急いでその場から車を発進させる。

安堵しながら峠道を進む。

一つ目のカーブを曲がり、短い直線ではアクセルを強く踏む。

二つ目のカーブに差し掛かろうというとき、ハザードランプの明かりが見えた。

先程の走り屋の車だとはすぐに分かった。

誰でもいいから縋りたいという思いで、車を停車させ彼らの元へ駆け寄った。

「大丈夫そうかよ?」

「あー、血は流れてないし、息もしてるわ」

何やら声を掛け合っている。

宮木さんとマサトが見た光景は、路肩に転落した一台の車だった。

記憶にあるあのカップルの車だ。

走り屋達は救助しようと車から降りていたのだ。

「ん?何?あんたらのツレ?」

「いえ……。あの……大丈夫なんですか?」

「あー、死んでないみたいだし、骨折くらいはしてるかもしれないけどね。まあ今、ダチが助けを呼びに走ってるから」

安堵する一方、妙な罪悪感が湧き上がった。

マサトが無理強いをしなければ、こんなことにはならなかったかもしれない。

いたたまれなくなった二人はその場から逃げるように離れた。

家に着くまでの間、車内は終始無言だった。

当初は友人達に自慢する予定だったが、この日のことは二人だけの秘密に留めている。

廃墟前で撮影された画像も、当然消去されている。

シェアする

フォローする