平成九年九月二日の早朝、高速道路でランプ橋工事中に作業事故が起きた。
橋脚を送り出す際に台車から外れ、ずれ込むというものであった。
数人の作業員は桁に挟まれ、衝撃で橋脚から落下するものもいた。
死者も出ており、ここを通過する際に何かを感じ取る人も少なくはない。
新田さんは仕事の都合で高速をよく利用する。
その日は取引先の絡みで、早朝から高速を走っていた。
まだライトを消すには早い時間帯である。走行車両も少なく、快適に走行していた。
──ダンッ!!
車が揺れる程の音がルーフから響き、慌てて急停車する。
後続車両のことを考え、路肩に車両を移動させて状況を確認する。
ルーフに凹みは見当たらない。
あれ程の衝撃であれば、何らかの痕跡は残っているはずである。
(おかしいなぁ?)
首を傾げるも、何処にも異常は見つからない。
走行車線を見ても、落下物のような物は見当たらなかった。
(うーん?)
納得できないまま、何となく上を見上げた。
近くにランプ橋があるが、そこからの落下物であれば車はひしゃげているだろう。
やはり、気の所為だったのか。
そう思った瞬間、頭上で何かが光った。
その光は真下へと一直線に落下し、路面で消えた。
今の光は何だったのだろう?
淡く弱い反射光であった。
新田さんは目を凝らし、その正体を確かめようとする。
間もなく、また弱い光が現れた。
目を凝らし集中する。
──それは作業着を着た人だった。
スローモーションで、もがき落ちていく。
その際に反射材は淡く光を放つ。
落下する人は地面に衝突した瞬間に、弾けるように消えた。
新田さんは唖然としながらその光景を見ていた。
頭の整理が追いつかない間に、光は何度も路面に落ちる。
作業員は何度も何度も宙に突然現れては、地面で消えるのを繰り返す。
この地獄のようなループは三十分程で漸く収まった。
(そういえば、事故があったのはこの辺だったよなぁ)
過去にニュースで見た作業事故を思い出す。
無意識に、光が消える路面に向かって手を合わせた。
一呼吸入れた後、新田さんは気持ちを切り替えて運転を再開した。
その後も、新田さんがここを通過する際に同じ衝撃を感じたことが数度ある。
それはいずれも、ほぼ同時刻であった。
しかし、二回目以降は停車させたり、確認に降りたりはしていない。
これが彼の出した答えである。