JR高砂駅の影(北海道江別市) | コワイハナシ47

JR高砂駅の影(北海道江別市)

ここは江別市にある小さな駅。

近郊の駅に比べると、圧倒的に自殺者が多いことで知られている。

武田さんは営業のサラリーマンである。

取引先があるため、いつもこの駅を利用している。

自殺が多いことも知っているし、目撃したことも当然ある。

ある日のこと。

所用を済ませ、移動の為に電車を待っていた。

スーツ姿の男がスッと横に立つ。

(ちゃんと列に並べよな)

そう苛ついた瞬間、電車が入ってきた。

呼応するように、横の男は線路に身体を投げ出す。

(バカ、やっちまった)

思わず顔を背け、周囲の音に耳を澄ます。

「あのー、乗ってくださいよ」

背後から声を掛けられた。

怪訝けげんそうな顔で武田さんを見る青年。

「いや!今!」

面倒くさそうに武田さんを追い越し、乗客はどんどん電車に乗り込んでいく。

(見てないのか?今飛び込んだだろ!)

状況を理解できず、動転した。

「えー、ドアが閉まりまーす」

アナウンスで我に返り、扉が閉じる前に慌てて電車へ飛び乗った。

座席に腰を下ろし、項垂うなだれるようにして大きく息を吐く。

夢でも見たのだろうか?

自問するが、答えなど出ない。

ふっと視線を戻すと、視界の右隅に見覚えのあるスーツが過ぎった。

一瞬のことではあったが、男の顔を覚えている。

(さっき飛び込んだ男!!)

動揺する武田さんを尻目に、その男は真っすぐ前を向いている。

(生きている……よな?)

無表情ではあるが、生者と変わらぬ色を宿している。

(じゃあ、やっぱり錯覚だったんだな)

そうこう考えている内に、降りる駅に電車が停まる。

武田さんが立つと、横の男も立ち上がった。

後に続くように一緒に電車を降りる。

男は何処までも武田さんの後を付いてくる。

「ちょっとあんた、何の用ですか?」

男は無表情なまま武田さんの顔を見続ける。

苛つき、肩を突き飛ばそうとした手が、男の身体をすり抜けた。

(へっ!?)

そこで男がこの世の者ではないと漸く気付いた。

霊が取り憑くとは聞いたことがあるが、それはこんな状況だろうか?

何かが違うような気がする。

思案した武田さんは無視することにした。

しかし無視をしていても、ずっと後を付けられているとなると流石に疲れる。

とはいえ、会社の同僚に相談しようものなら、頭の心配をされるだろう。

結局、その日の仕事を終え、終業時間になった。

やはり男は付いてきて、自宅まで一緒に帰るはめになった。

唯一の安らげる時間が男の所為で台無しである。

能面のような無表情は気持ちが悪過ぎた。

食事を済ませ、早々に床に就くことにする。

布団に潜り、さり気なく横を見た。

先程まで、武田さんの体勢に倣うように、右横側で寝る姿勢を取っていたはずである。

その姿が見えない。

喜びの余り、上半身を起こすと、床面から男の顔が浮かんできた。

武田さんが身体を横にすると、男の顔も床に沈んだ。

意味が分からない。気持ち悪さに拍車が掛かっている。

武田さんは男に背を向け、寝ることにした。

それから二、三十分経った頃だろうか。

ウトウトしかけると、階下から女性の悲鳴が聞こえた。

その声に驚き、飛び起きる。

ふと横を見るが、床に男の顔はない。

完全に立ち上がるが、何処にも男の姿を見ることはなかった。

(どうやら沈んだのか……)

何となく状況から、そう思えた。

それから三日程は平穏な日々を過ごせた。

しかし仕事上、T砂駅に行く必要性が出てくる。

気にし過ぎなのかもしれないが、駅に電車が着いた瞬間から変に緊張をしてしまっていた。

ところが何事もなく構内を通り過ぎ、取引先に向かった。

仕事を終え、またT砂駅へ戻ってきた武田さん。

周囲にあの男はいない。

やはり、あの日だけの問題だったのだろう。

そう思った瞬間、電車が駅に入ってきた。

──スッ……。

突然その場に現れ、身を放り出すスーツの男。

前回とは違い、捻れたように首をこちらに向けている。

いや、通常ではあり得ない角度である。男は真後ろを向いていた。

そして電車に撥ねられたと思った瞬間、男の身体は弾けるように消えた。

「で、想像通りですよ。ええ……」

やはり男は武田さんの後を付いてきた。

首を真後ろに向けながらではあるのだが……。

武田さんが就寝すると、階下から悲鳴が聞こえ、男の姿が消える。

既に同じことを六度繰り返した。

現在、武田さんは担当地区の配置換えを会社に申請している。

何度体験したところで、慣れることはない。

何より気になるのが、回数を重ねる毎に男の身体は変化していく点だ。

腕が千切れ、足が歪に曲がる。

最終型を見る前に、申請が受理されることを願っている。

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