オタモイ遊園地跡(北海道小樽市) | コワイハナシ47

オタモイ遊園地跡(北海道小樽市)

オタモイ岬には過去の遺物が残されている。

ここにはかつて人々が賑わうオタモイ遊園地という施設が存在した。

終戦後、龍宮閣という料亭は謎の失火で焼失し、オーナーは失意のままに姿を消す。

龍宮城をイメージしたであろう、神を祀った祠や白蛇弁天洞というトンネルは辛うじて残っているが、徐々に風化の一途を辿る。

この周辺では自殺者も多く、それと相まって心霊体験報告も多く挙げられている。

菅さんはこの周辺をドライブしていた。

何とはなしに看板が示す方向を辿りながらハンドルを握るうち、この場所に降り立った。

「へぇー、こんな場所があるなんてねぇ」

時代を感じる白蛇弁天洞を潜り抜け、情緒を味わう。

途中途中で海を見下ろし、煌きらめく波間に癒されていた。

龍宮閣跡地まで到達すると、異質な雰囲気を出す祠を見つける。

入り口上部には簡素な龍宮城をイメージしたようなオブジェが収まり、穴の奥には何かが置かれている。

中を探るように覗き込むと、岩盤を削って作られたのであろう、結構な大きさの空間が見える。

中央壁面には岩質の変化か数本の白い線が見え、それを祀るような台が置かれていた。

(神様を祀ってたんだろうけど、これは酷いな)

崩れた岩盤も散らばり、ゴミも散乱していた。

荒れ果てた現状は、この場に居合わせただけの自分が悪いことをしてきたかのような気分にさせる。

菅さんはそそくさとそこから出て、先にある場所からまた海を見下ろした。

遠くを小さな漁船が走っている。

視線を徐々に岸側に近付けていくと、海の色の変化に気が付いた。

(潮の流れなんだろうなぁ)

海面には、十メートル間隔位で薄い紺色と淡い紺色が交互に存在する。

(これだけ変化があるなら、飛び込んだら助からないんだろうな)

そんなことを考えていたら、肩をポンと叩かれた。

振り向くが誰もいない。

気の所為だったか、とまた海を眺める。

先程の色の変化の辺りを探すが、何処にも見当たらない。

確かこの辺だったよな、と目を凝らしていると、海面にポンポンと点在するように白い花びらが浮かび出た。

(へっ?)

眺める内に花びらの数は増え、三十を超える。

その花は海面で揺れているのか、少し動いているように思える。

(距離があるからよく見えないんだって)

必死に注視すると、身体の毛が粟立つ。

──花だと思い込んでいたのは、人の手だった。

何かを掴もうとする指の動きを花びらと錯覚した。

すぐさまその場から離れようと踵きびすを返す。

そして、菅さんは動けなくなる。

海に背を向けた途端、身体中を掴まれた。

その力は思いの外強く、振りほどくことができない。

助けを呼ぼうにも、近くには誰の姿も見えない。

喉も緊張と恐怖で張り付き、ヒューヒューという呼吸音だけが自分の耳に届いた。

何とか助かろうと、心の中で必死に念仏を唱える。

しかし、何の効果もなく、グン、と背後へ引っ張る力が強まった。

(南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏!!)

十分程、抵抗を続けていただろうか。

突然、掴まれていた感触が消える。

菅さんは、その反動で前のめりに崩れ落ちる。

すぐに逃げ出さなきゃとは思うのだが、どうにも腰に力が入らない。

怯えの余り、菅さんは小動物のように周囲を警戒した。

誰もいないが草木の隙間から、こちらを窺うような気配がある。

それは一人や二人のものではない。

丁度、帰り道のほうになる先程の祠の付近が一番濃密な気を発している。

菅さんは周囲を注視しながら、無事家に帰る方法を必死に考えていた。

『パンッ!』

祠から乾いた破裂音が聞こえた。その一瞬で、彼を窺う気配が消えた。

(今しかない)

幸いにして腰にも力が入る。

菅さんはその場から駆け出し、祠の横を通り過ぎる。

その瞬間、祠の中の異変が視界を過ぎった。

みっちりと青白い肉の塊が詰まっている。

一つではない。

所々、不規則に脈動している。

恐らく複数のモノが絡み合っているのだろう。

(ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ)

本能的に危機感を覚えたことで、菅さんの足は加速する。

一気に車まで辿り着き、エンジンを掛けようとキーを回す。

キュン、キュン、キュンキュン……。

セルモーターが調子悪く鳴くばかりで、一向にエンジンは掛からない。

(何でだよ、頼むって!早く!!)

焦る菅さんの背後から、強烈な気配が襲いかかってきた。思わずバックミラーをチラリと覗く。

そこには先程祠で見た白い塊が映っていた。

反射的に車から飛び出そうとするが、何故かドアが開かない。

ミラー越しに白い塊の様子を窺いながら、必死の抵抗は続く。

そして、菅さんの気持ちを逆なでするように、白い塊は膨れ上がっていき後部座席をほぼ埋め尽くそうとしていた。

(止めてくれ!)

声にならない叫びを上げた瞬間──。

『ブシュ───ッ』

大きく空気が漏れる音が車内を包む。

と同時に、異臭が充満した。

菅さんの身体は、鼻がもげるほどの強烈な腐臭を痛みと認識し、そのまま意識を失った。

目が覚めると、辺りは真っ暗だった。

エンジンは簡単に掛かり、車は動くようになっていた。

後部座席の白い塊の姿は消えていたが、少しだけ和らいだ異臭が車内に充満していた。

全ての窓を開け、菅さんはその場から離れた。

暫くの間、車内には消臭剤を大量に置くはめになった。

異臭が消えるのに一カ月程掛かったが、菅さんは異臭から解放されたことで漸く日常を取り戻せたような気がした。

ただ──それからごく偶にではあるが、あの臭いが鼻の奥に蘇ることがある。

そういうときは、周囲から視線を感じる。

本当の意味での日常を取り戻す方法は分からない。

時間が解決してくれる、そう菅さんは信じている。

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