沼東小学校の空(北海道美唄市) | コワイハナシ47

沼東小学校の空(北海道美唄市)

道央に沼東小学校という廃墟が存在する。

ここは通称、円形校舎とも呼ばれ、廃墟マニアや心霊スポット愛好家にはよく知られている場所である。

謂われとしては、過去に授業中の小学生が突然消えたとか、スポット探検に訪れた者が発狂し、そのまま失踪したというのが有名であるが、真偽の程は定かではない。

渡辺さんは廃墟マニアで、この場所にずっと興味があった。

色々と調べ上げ、季節の穏やかな春先にここを訪れた。

近くに車を駐め、徒歩でN東小学校へ向かう。

地面は噂通りの泥濘ぬかるみで、用意していた長靴が大変役に立った。

古びた小さな橋を越えると、右手に茶色の鉄骨の塊が現れた。

ここは元体育館だったと聞く。

木造が多い時代に太い鉄骨で組まれた骨組みを見ると、鉱山町としてかなり栄えていたことが窺える。

渡辺さんは愛用の一眼で、構図を変えながら何十枚も撮影した。

さて、本命の校舎を目指そうと気を取り直すと、足元の草に目を奪われる。

一本の雑草がくるくると円状に揺れているのだ。

肌で感じるような風は吹いてはいない。

実際、他の周囲の草木も揺れてはいない。

手で触って一度動きを止めても、またすぐにくるくると回り出す。

(円形校舎で円状に揺れるってか……)

微妙な風の影響なのだろうと思いつつも、少し嬉しくなってその雑草も一眼に収めた。

先へ進むと円形校舎が見えてきた。

完全な円形ではない。

ただ、上空から見ると円形に見えるその造りは、当時は画期的なものだったのであろう。

窓ガラスは全てなくなり、一部の窓枠の鉄骨は拉ひしゃげてしまっていた。

湿地帯とは聞いていたが、校舎の周囲はある程度水没している。

この幻想的な風景に渡辺さんの血は騒ぐ。

あちこちの角度から、シャッターを切りまくる。

十分な量をフィルムに収めると、中の探訪へ入ることにした。

一階部分は水没し、歩き回るのは危険に思えた。

水量はさほどではないようだが、溜まっている泥の下に何が隠れているのか分からない。

廃墟マニアの鉄則として、現場を荒らさない、危険なことは避けるというのがある。

上階へのルートを探し、慎重に前へ進んだ。

そして漸く、最終目的地に辿り着いた。

──螺旋階段の終点。

その上部には採光の為の天窓がある。

円形の窓が幾つも並び、そこから差し込む光が輝いて見えた。

薄暗い校舎内は柔らかい光に包まれる。

まるで星を鏤ちりばめたような造形美に、当時の施工者のセンスが感じられた。

暫し肉眼で堪能した後、フィルムに収めまくる。

持ち込んだ二十本のフィルムは全て使い切った。

これで渡辺さんの旅は終了した。

後日、自宅に作った暗室で、現像作業に掛かる。

大体の写真は、見事にその風景を捉えていた。

ただ……揺れる雑草の写真。

その何れにも、茎を指で抓んでいる白い右手が写っていた。

そして天窓の写真──。

──小学生位の幼い女の子がこちらに手を伸ばすように写り込んでいた。

天窓から上半身だけを生やし、悲しそうな──或いは苦しそうな表情で両手を伸ばしていたのだ。

渡辺さんは霊には興味がない。

根っからの廃墟マニアである為、恐怖を覚えることはない。

きちんとした映像を残す。

それだけの為に、あちこちへ出向いているのだ。

渡辺さんはまた予定を組み、円形校舎を訪れるという。

ただそのときには、小さな花束を持っていくそうだ。

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