死体の発見(徳島市城南町) | コワイハナシ47

死体の発見(徳島市城南町)

小学校の低学年生の頃、死体を発見したことがある。

汚水の中に浮かぶ青白い肢体。

(綺麗だなぁ)

何故かそう思った。遺体の廻りには、人から出た脂が拡散しており、朝日でキラキラ光っていた。現実と非現実が交差した瞬間は、今も脳裏にこびりついている。

この子どもの頃の経験は、私がオカルトやホラーの世界に進む大きなきっかけになった。山口敏太郎誕生の瞬間である。

その日私は、近所に住む同じクラスの女子・M本さんと一緒に、私が通っていた八万小学校に向かっていた。何故か、その日に限って朝早く目が覚めてしまい、当時ちょっと好意を寄せていたM本さんと一緒に学校に行くことになった。

(やはり、女の子との通学は楽しいな)

子ども心ながらに、好きな女の子との通学で気持ちが高ぶったが、その幸福な時間はあまり続かなかった。

「はざまくん(私の本名)、あたしも一緒にいくわ」

私がM本さんと一緒に歩いていると、途中でK山さんがそう言って合流してきた。K山さんも近所の女の子であったが、私よりも背がかなり高く、男子の自尊心を傷つけられるので一緒に歩きたくはなかった。

(ええ、K山も来るのか、ああぁ、ええけど)

一応笑顔で応えたものの、内心は不満であった。(なんだよ。せっかくのM本さんとの時間を台無しにしやがって)。少し興ざめではあったが、おしゃべりをしながら3人で歩いた。しばらくすると、八万小学校の裏手にある川が見えてきた。高度経済成長期特有のドブ川の臭いが鼻腔を刺激する。

当時、八万小学校の裏には深い川があり、川辺は、緑色のフェンスで囲まれていた。いつもコインゲームをやりに行っていた、行きつけのお好み焼き屋の前を通り、その川の真横に来た。

「……んっ?」

何か嫌な感じがした。そして、ゆっくりと視線を川面に落とすと、奇妙なモノが水面に浮いているのが見えた。

(これはなんだ?)

脳内が混乱し、心が動揺しているのがわかった。

「はざまくん、あれなんだと思う?」

M本さんの指差す方向には──〝人間のようなもの〟が浮いていた。

「………」三人に訪れる長い沈黙。

(まさか、人間……? こんな場所に)

よく見てみると、手も足もないダルマのようだった。映画で見るような死体がこんな住宅街の川に浮いているのか。一瞬困惑したが、すぐにその答えは出た。

「あぁ、マネキンとちゃうか?」私は冷めた口調で答えた。M本さんの前でかっこつけている部分もあった。

「マネキン? だって、マネキンがあんな古い服を着るの?」K山が不満そうに言った。確かに、そのマネキンは妙に古ぼけた服を着ている。

「だったら、石を投げてみよう。マネキンならコツンって音がするし、人間ならボトンって鈍い音がするんとちゃうか」そう言って私は石を投げてみた。虚空を舞って石が落下する。

「ボットン」

マネキンと思っていたはずの物体の背中に当たった石は、鈍い音を立てて水中に沈んでいった。

「……」

立ち尽くす3人の間に、再び嫌な沈黙が流れた。

その次の瞬間、死体がぐーっと水底に向かって沈んだ。

「ザザザブブブン」と妙な音を立てて裏返った。その瞬間、切断された腕か足の断面が見えた。やや突き出した腕の骨らしきものの周囲に──赤黒い肉片がついていた。

「ひぃぃぃぃ!」

3人は同時に緑色のフェンスから後方に飛び退いた。

「ぎぎぎぎぎぃぃぃ」奥歯を擦り上げながら、3人は悲鳴にならない声をあげた。

私は先程見たモノを脳内で反芻すうしてみた。

「これはあかんわ、僕、お好み焼き屋のおばちゃんを呼んでくるわ!」

私は顔馴染みだった、お好み焼き屋のおばちゃんを呼びに行き、死体を指差し説明した。

「あわわわっ」

訳のわからないことを喚きながら、おばちゃんは警察に通報した。その後、警察官が到着すると、周囲には白い幕が張られ、大勢の警察官が周囲を固めた。

その夜の夕食時、この切断遺体発見のニュースがテレビで流れた。テレビの画面では、マイクの前でお好み焼き屋のおばちゃんが興奮気味にレポーターの質問に答えていた。一緒にテレビを観ていた父が、私にこんなことを言った。

「この死体、ほんまは敏幸(私の本名)が第一発見者やろ」

「そうなんよ。ほんまは僕やで」

と言いながら、私はおかずの鶏肉に思い切りかぶりついていた。このエピソードが、オカルト作家・山口敏太郎のスタートであった。

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