2012年12月31日に入院した我が家の愛犬ぷりん♪が、6日間の闘病の末、1月5日に死んだ。
クリスマスには犬用ケーキを美味そうに平らげていた奴が、27日に謎の呼吸困難を起こし、肺炎の疑いで入院していたのだ。
13歳のシーズー犬であり、寿命といえばやや早く、あきらめもつくものだが、売れない頃からいつも一緒だった〝小さい相棒〟の死は衝撃的であり、3日間程、食事がほとんどとれない状態だった。
悲しいことだが、この死を乗り越えなければならない。
1月5日は編集部でお通夜をして身内だけで送った。翌6日には、犬用の葬儀場で遺体を焼いてもらった。
「わんちゃんのご遺体を焼くのは、一時間ほどかかります」
と職員に言われ、かみさんと寒空の中、ぷりん♪の思い出話をしていた。
すると葬儀場の上に不思議な現象が起きた。
「なんだぁ、あれ」
私が指差すと、かみさんと職員が見上げた。
太陽の笠(太陽の廻りをまるく雲がとりまく現象)が発生しており、その上半分は、まるで橋が架かったかのような虹が出ていたのだ。
「ぷりん♪が貴方に教えてくれたのよ。霊界に虹の橋があるって」
かみさんが号泣した。
「あいつらしいなぁ、見せてくれたんだな」
私も号泣した。立ってられないほど、泣いた。
実は、世界中で流布されている都市伝説に、犬や猫は死後、霊界と現世の境目にある虹の橋で遊んでおり、飼い主たちが霊界にやってくると、迎えに来てくれるといわれているのだ。
「私も死んだら、今まで飼ってきた歴代のわんちゃんやペットと会いたいわ」
かみさんはこの都市伝説を聞いたとき、私にそう語った。
「ふん、馬鹿馬鹿しい、単なるフォークロアですよ」
都市伝説とは虚構であり伝言ゲームであると思っている私はこの話を、単なるデマだと思った。
だが、この目の前にある葬儀場から太陽の向こうまで続く虹の橋はなんだ? やはり、ペットたちの虹の橋は実在したのだ。
「ぷりん♪、迷わないように気をつけて行け」
私とかみさんは虹に向かって呼びかけた。すると、虹がすーっと消えていった。
「ぷりん♪が行っちゃったよ」
かみさんがまた号泣した。
そのとき、火葬場の職員が焼き場のドアを開けた。
「ぷりん♪ちゃん、お骨になりました」
「おかしいじゃないか、まだ30分しか経ってないし」
職員が返答した。
「はい、でも早く焼けちゃったんです」
「貴方が忙しいからぷりん♪が気をつかったのよ」
私は言葉が出なかった。
霊界への虹の橋が出たことや、その橋が消えた瞬間にぷりん♪が骨になるとは……。
ささやかな感動につつまれながら、私とかみさんは遺骨を拾った。
お骨になったぷりん♪をつれて、かみさんと車で帰る際、また不思議なことが起こった。
突如、チューニングを合わせてないカーラジオに、ある歌の一部分が流れたのだ。
♪こんな気持ちはじめてさ♪
「今、聴いた?」
「うん、聴いた」
私は驚きを隠せなかった。ちょうど、車内で、
「ぷりん♪は凄い犬だった」
「あいつが人間に生まれ変わったらきっと面白いことをやる」
「今、あいつどんな気持ちなんだろうね」
と話していた最中だった。
こんな絶妙のタイミングで、こんなぴったりな歌詞が、その部分だけ聴こえてくるなんて。
私の自宅の玄関前には、ぷりん♪が12月31日にやった最後のおしっこのシミがある。何日たっても消えないのだ。
このシミが消えたとき、私たち夫婦はぷりん♪を思い出にできるのかもしれない。
世の中に不思議なことはある。世の中に不思議なことはないと言い張るのは、人間の驕りに過ぎない。ぷりん♪のシミは、1月に降った大雪の日に消えた。
だが、思い出は永遠に消えない。