銀色な奴(徳島市) | コワイハナシ47

銀色な奴(徳島市)

これは、赤い服の女を初めて目撃したのと同じ、小学校3、4年生の頃の話だ。

私は、近所にあった祖母宅に、週末の度に泊まっていた。無論、ばあちゃん孝行ではない。ただ、何度もわがままを聞いてくれるうえ、毎回千円のこづかいをくれたから泊まっていたのだ。孫とは兎角、残酷な生き物である。

そのうち、上の弟が小学校にあがると、弟と交代で行くようになるのだが、時には弟と2人で祖母宅に行くこともあった。祖母は、眉山の麓に広がる寺院群を当て込んだ花屋「花・間」を二軒屋町で何十年も経営していた。

「うちのお客さんは、仏さんや。大事にせなあかん」

祖母は度々そんなことを言っていた。寺町の花屋なので、店内はシキビ、榊、菊など地味なものばかりであり、夜中の店内は無気味な異空間であった。同じ町内に父親の母方の従兄弟の子供、つまり、再従兄弟はとこのなお君という1つ上の男の子が住んでいた。私の母方の祖母と彼の祖父が姉弟であった。

なお君には、私も弟もよく遊んでもらった。次男坊であり、弟が欲しかったなお君と、長男坊であり兄貴が欲しかった私は、赤ちゃんの頃からの仲良しであった。

そんな3人が大道という通りにある、忌部神社の裏山で遊んでいた時の話である。

この場所は二軒屋町の子供にとっては、大人に見つからない近場の絶好の遊び場であり、秘密基地でもあった。そこで昆虫を捕まえているとき、妙なモノを目撃した。

──変な巨人が歩いていたのだ。

忌部神社の裏山で徘徊する巨人が、我々3人の目に留まったのである 身長は境内の鳥居と遜色なく、2メートルは余裕で超えていたと思う。だが、一番不審なのは全身を覆う銀色のスーツを着ていた点である。昼下がりの太陽を鈍く反射しながら動く巨人。どう見ても、まともな人間には見えなかった。

「あいつ、怪しいなぁ」

なお君がつぶやいた。私も弟もあまりの異常さに、目が釘付けになった。

「なお君、あいつ悪い奴ちゃうか」

私の言葉になお君は静かに頷いた。銀色の巨人は、手に四角い金属の箱のようなものを持って、うろうろしている。巨体のわりには、移動がスムーズに見えた。

「ちょっと、観察しよう」

なお君の提案で、三人は岩陰に身を潜め、銀色の巨人の行動を見守った。私はその頃、江戸川乱歩の少年探偵団にはまっており、気分はすっかり小説「少年探偵団」に出てくる小林少年であり、怪人・二十面相の悪事を見張っている心境になっていた。だが、青い顔で震えていた弟が、恐怖に耐え切れず思わず声をあげてしまった。

「うわぁぁ!!」

「よっちゃん、何を言うんや」

なお君がつぶやいた。

「アホか」

なお君と私はそう言って、弟の口を押さえたが、こちらに気がついた銀色の巨人が箱を持ったまま、大股歩きで猛然とこちらに向かってきた。もの凄いスピードである。

(あかん、捕まってしまう)

目の前まで銀色の巨人が来た。

(うわああ、殺される)私はそう思った。……が、その後の出来事を覚えてないのだ。

──記憶が消えた。記憶はここで止まっているのだ。これはいったいどういうことであろうか。消されたのか、消えたのか。やっぱり白日夢だったのだろうか。

あの日の出来事はなんであったのか、と悩む日々が続いた。だが、いつしか大人になり、常識が身につくと同時に、この記憶は自分の〝模造記憶〟ではないかと思うようになった。つまり、子供の頃の自分が見た夢か何かを、実際にあった出来事だと勘違いしていただけではないか?

「悪い夢なのだ」

そう思っていた。いや、そうであって欲しかった。

数年前のある日。株式会社山口敏太郎タートルカンパニーで総務部と経理部を統括している弟に、なんとなく訊いてみた。

「昔、なお君と一緒に、忌部さんの裏で、銀色の巨人を見たよな」

すると弟がこんなことを言った。

「あぁ、見たよ」

「ええっ!?」

「あの時は、僕が大声を出してしまって、兄ちゃんたちに怒られたよね。銀色の服を着た巨人がこっちまで走ってきたけど、そこから記憶がないんだよ」

私は声が出なかった。──銀色の巨人は、現実だった。弟は確かにあの日、銀色の巨人を見ていたのだ。

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