おっぱしょ石には、まだまだ妙な話がある。
小学校の高学年か、あるいは中学校に入ったばかりの頃だったような気がするが、I野君のお母さんが学校帰りの私を呼び止めた。
「はざまくん、おっぱしょ石に案内して」
何故か目玉がぎらぎらしており、横では申し訳ないような顔をしてI野君が立っていた。
「あぁ、ええよ」
私はI野君とお母さんの2人を、「おっぱしょ石」まで案内した。二軒屋町から城南町に至る道のカーブまで来たところで、「おっぱしょ石」を指し示した。
「あれやで」
「間くん、ありがとうな」
そう言うとI野君のお母さんは、草を掻き分け、斜面を登ると「おっぱしょ石」の前に立った。
睨みあう両者。
「●○×▲□※●○×▲□※●○×▲□※」
I野君のお母さんは意味不明な呪文を唱え始めた。ある種の、異様な雰囲気が周囲に漂う。
「ええっ、なに、なに、何やるの?」
「ごめんなぁ、間君」
I野君がすまなさそうな顔をした。動揺する私の前でI野君のお母さんは、
「ハッ ハッ」
という気合と同時に「おっぱしょ石」に手を当てた。
「えええ、そんなんして大丈夫?」
「大丈夫やと思うけど……」
I野君が苦笑いで答えた。
(そういえば、I野君のお母さんは、拝み屋さんって聞いたけど、何をやる気や?)
「●○×▲□※●○×▲□※●○×▲□※ ハッ ハッ」
彼女はブツブツ呪文を唱えながら、「おっぱしょ石」に向かって手から何かを送り込んでいるように見えた。だが、次の瞬間、悲劇が彼女を襲った。
「わぁぁぁ」
悲鳴をあげるI野君のお母さん。全身が大きく痙攣している。電気に感電しているかの如く大きく波打つ体。
「ぎえええええ、手が離れない!!」
奇声をあげながら、手を離そうともがくが、何故か手は(ぴたり)と石にひっついて離れない。愕然となる私とI野君。
「あっ、危ないよ、あれは。I野君、手を貸して」
「わっ、わかった。こうかな」
I野君と私は2人がかりでお母さんの手をおっぱしょ石から引き離した。
あれがいったいなんであったのか。今でもよくわからない。ひょっとすると霊能者とおっぱしょ石の異種格闘技戦ではなかったのかと推測している。
関連話
→おっぱしょ石(徳島市二軒屋町)