私は小学校5年生のとき、UFOを目撃した。私1人の目撃ではない。──クラスの男子、全員で目撃したのだ。そのUFOを見た日のことを詳述したいと思う。
その日は、運動会の予行演習であった。女子が演じるお遊戯か何かを、運動場の片隅で退屈しながら男子全員で見ていた。
(つまらんな)
(おもろうない)
そんな雰囲気が男子の中でどんよりと広がっていた。その時誰かが、空を指差した。
「なんか、飛んでるで」
私の他、数人の同級生が空を見上げた。
「どこ? どこ?」
「あそこやって」
かつて水死体を見つけた川の横から、運動場に入る裏口があるのだが、そこから運動場を見ると校舎と眉山が見える。さだまさしさんの映画で有名になった眉山が、校舎の背後にゆったりと広がっているのだ。
「ほんまや、なんやろ」
「おいおい、見てみろよ」
同級生たちが騒ぎ始めた。眉山の上空、運動場から見て校舎の右側の空間に白い繭まゆのような物体が浮かんでいるのだ。この距離で、あの大きさならエンジン音が聞こえても良いはずである。だが、まったくの無音である。──しかも動かない。
(あれはなんだ? 水木しげるの妖怪図鑑に載っていた〝わたりびしゃく〟か、〝カネダマ〟か?)
いつも冷静な私も脳内で大混乱している。思わず腰が浮き、その物体をしげしげと見つめてしまった。眉山や校舎と比較すると、数百メートル、いや数キロもある巨大な物体である。
「大塚のバルーンとは違うで」
「そうやな、違うで」
当時、徳島の大企業といえば大塚製薬ぐらいであり、よくバルーンのようなものが上がっていたが、それとは違うのは明らかであった。しかも、よく観察すると物体の真ん中には、四角い窓が真横にまっすぐ並んでいる。
「なんかいな、あれ、お化けか、空飛ぶ円盤か」
「誰か先生呼んでこい」
数分後には、クラスの男子全員がその物体を見たので、担任の先生を呼ぼうということになった。
「なんだ、おまえら」
担任の坂山先生がやってきた。この先生、ブルドッグに顔が似ていることから「ブルちゃん」「ブル」というあだ名で呼ばれている人物である(赤い服の女の事件にも出てきた先生である)。
「先生。あそこに変なもんが浮いているで」
口々に叫ぶ同級生たち。
「うん? 何処、何処? 見えんで」
「眉山の横、校舎の横。あるでしょ?」
「白い丸いやつがあるやん」
「うん、うーん」
私や同級生は必死に坂山先生に説明したが、どうしても先生には見えないのだ。
「あそこだって」
「ううん、見えないね……」
先生は首をひねり続けた。そのうち、その物体が小さくぶるぶると振動しながら、くるりと回転すると──消えてしまった。
大人には見えないものがある。その日私が理解した〝社会の仕組み〟であった。その後、私は小学生時代にもう1回だけ、運動場でUFOを見ている。その時は、後におもちゃ職人となって、徳島県で名を馳せるT君と一緒であった。
昭和の頃の運動場は、度々UFOが飛来したものである。UFOが飛んでいた昭和の運動場、素敵じゃないか。