足折の儀式(徳島県 園瀬川) | コワイハナシ47

足折の儀式(徳島県 園瀬川)

小学生時代から中学生時代を通じて、私はボーイスカウト活動をやっていた。元々アウトドアに興味を持っていたのも事実だが、凝り性のため異常なほどボーイスカウトの知識を貯えてしまい、日本代表としてアメリカジャンボリーやアジアジャンボリーに参加させてもらった。

この話は、そんな筆者が、中学2年の時に体験した不可解な出来事である。

その日、所属ボーイスカウト徳島第1団は、園瀬川の河原でキャンプ中であった。園瀬川は徳島市を流れる河川であり、休日となるとキャンプを張る家族や若者が多い場所であった。

「班長、妙なもんが出ました」

かまど用に河原で穴を掘らせていた後輩が私に声をかけた。テントの周囲に雨水の排水路を作っていた私は作業の手を止めた。

「おう、どんなもんが出たんだ?」

後輩が作業していた現場に私が行くと、そこには犬の腐乱死体があった。頭部を上にして垂直に埋められているが、頭部は切断されている。普通愛犬が死んだ場合、縦に深い穴を掘って垂直に埋める飼い主はいない。

「これは……、まさか犬神の儀式……」

中学校でも有数のオカルトマニアであった私は嬉しくなってしまった。

「犬神……、ですか?」

「あぁ、まだ健在なんやな、犬神筋の一族が……」

犬の腐乱死骸を前に、失神寸前の後輩の横で私は小躍りしたくなった。

(やった! 廃絶したはずの犬神の儀式、健在やないかぁ)

実は四国においては第二次大戦終戦直後ぐらいまで、犬神という儀式が行われていた。これは犬を頭部だけ出して垂直に土に埋め、目の前に食べ物をおいて飢餓状態に追い込むことから始まる。食べ物が食べたくて限界に達した犬の頭部を切断すると、その魂魄は術を行った者の式神となり、数々の式神に仕えるというのだ。

(やはり、頭部は切断されている。食べ物も目前においた痕がある)

この河原では今もそんな儀式が行われているのか。そう感慨にふけっていると、さらに妙なものに気がついた。──足の折れた小さな土偶が、犬の頭部近くにあった。

「これは足折の術なのか」

「足折……、ですか?」

「そうやな、足折」

私はこれまた興奮してしまった。呪いの一種で土偶の足を折って願掛けするという術があると聞いていたが、実際に見るのは初めてだった。

「犬神と足折の併用か、これは凄いぞ」

その日は、そんなこんなで大騒ぎのまま夜が暮れた。

その日も深夜まで私は後輩たちと話し込んでいた。昼間発掘した犬神の話で持ちきりであった。

「あんなのが、まだあるんですね。この昭和の時代に」

「いや貴重な発見だよ」

「間先輩は、犬神を何に使います?」

「そうやな、ライバルでも蹴落とすか。はっはっはっ」

私は後輩たちと馬鹿笑いをしながらも、興奮を抑えきれなかった。その時、不気味な出来事に気がついた。

(おや、おかしいぞ)

テントの近くで──足音が聞こえるのだ。誰かがテントの廻りを歩いているのだ。

ガッサ、ガッサ、ガッサ

気のせいではない、何者かがテントの廻りを歩いている。

「おかしい、足音がする。野良犬か?」

「ほんとだ、キャンプ荒らしをするという噂の浮浪者かな?」

後輩3人は震え上がっている。私も堪えようのない恐怖を感じたが、班長という立場上、落ち着かねばならない。テントの中に緊張感が流れた。

「じゃぁ、確かめよう。そーっと、テントの裾を捲くって確認しよう」

私と後輩たちはゆっくりとテントの裾を捲くった。夜露に濡れた雑草が見えた。足音も明確に聞こえた。だが……。

(これは、いったいなんだぁぁ)

私と後輩たちは度肝を抜かれた。足音がする度に、音もなく雑草が倒れていく。

──でも、足が見えない。いや正確に言うと、透明な足が雑草を踏んでいくのだ。私は思わずごくりと生唾を飲んだ。

「………」

もはや、誰も声が出なかった。

(やばい、これは足折された土偶の霊なのか、それとも犬神なのか)

そのまま数分が経過し、高校生の先輩たちが夜間パトロールでやってきた。

「わははははっ」

先輩たちの笑い声がその緊張感を破った。その刹那、怪しい足音は何処かへと逃げ去った。

「うわわわわぁぁぁ!!」

私と後輩たちは一斉にテントから飛び出し、先程目撃した見えない足音について先輩に説明した。

「おまえら、寝ぼけてるんだろ」

先輩たちは笑って聞いてくれたが、私は得体の知れない感覚に襲われていた。

──あれは、足を折られた土偶であったのか。それとも──首を切られた犬神であったのか。

夏が来ると思い出す、中学生時代の思い出である。

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