ずるずる(徳島市城南町) | コワイハナシ47

ずるずる(徳島市城南町)

高校時代、同級生の女の子が殺害された。といっても同じ高校の同級生ではなく、幼稚園から中学まで一緒だった元同級生が殺害されたのだ。

仮に木田さんとしておこう。木田と初めて会ったのは、八万幼稚園に通っていた頃だった。同じクラスになった木田と私はお弁当の時間に向かい合って食べていた。

すると木田が突然、吐き気を覚えたらしく自分のお弁当に向かって嘔吐した。

「おろおろおろろろ────」

たちまち、弁当にゲロがこんもりとたまった。

「うわわっっ、汚い!」

潔癖症だった私は、大声をあげて立ち上がった。だが、木田は何食わぬ顔でこう言った。

「これも食べるけん、大丈夫よ」

と言いながら吐いたばかりのゲロを食べだしたのだ。教室は騒然となった。

「えええ!? なんでそんなことするの?」

「勿体ないやろ」

困惑する私の目の前で、木田は笑いながら自分のゲロを平らげてしまった。

こんなことがあったものだから、私は密かに、木田は大変な女傑なのではないかと思っていた。

(あいつは、人とは何かが違う)

家庭が複雑だった木田は、中学に入る頃にはグレ始めていた。高校に入ると接点もなくなり、次第に彼女のことも気にしなくなった。

そんなある日、衝撃的なニュースが流れた。

「木田のやつ、彼氏に殺されたようだぜ」

「殺されただって!?」

「自殺に見せかけた他殺だったらしいぜ」

木田は彼氏の実家で首を吊った状態で発見された。古い農家だった彼氏の実家は太い梁はりが室内に渡されており、それに荒縄が掛けられ木田はぶら下がっていた。だが、彼氏はそのまま行方不明となり、自殺が偽装されていたことが判明したのだ。

「あいつ、死んじゃったのか」

同級生たちの動揺には激しいものがあった。だがしばらくして、不気味な怪談話が囁かれるようになった。──木田の幽霊が出る、という噂であった。

この話を筆者に話してくれた川本はひどくおびえていた。

「やばいって、やばいって、あいつは生前、俺がいじめてたから、俺に怒ってるんとちゃう?」

川本は目玉を大きく見開くと青白い顔で私にすがりついてきた。

実は木田の幽霊が出たのは冷田川という川沿いであり、川本の家はこの川沿いにあった。確かに中学時代、川本は度々木田をいじめていた。だが、それは男子が女子をからかうレベルの話であり、そんなに陰湿なものではなかった。

「アホか、あの程度なら、問題ないんじゃないの」

「でも、川沿いに来てるんやで」

川本は、子供のようにぶるぶると震えている。これは川本の考え過ぎだろうと私は思った。噂によると、確かに木田の幽霊は冷田川沿いを少しずつ移動している。殺害された彼氏の実家で最初に幽霊が目撃され、目撃ポイントが段々とずれていくのだ。──しかも、木田の幽霊は首から縄をぶら下げ、ひきずりながら歩いている。

「ずるり、ずるり」

首から荒縄をぶら下げた木田の幽霊は、縄をゆっくりとひきずりながら、川沿いを移動していたのだ。

「ずるり、ずるり」

タクシー運転手や会社員などの目撃者は、毎晩のように増えていった。その目撃現場の先を調べると、彼氏が1人暮らしをしていたアパートがあった。

「おまえの家に向かってるんとは違うと思うで。彼氏のアパートと違うかな」

その後も、木田の幽霊は出現を続けた。ロープをずるり、ずるりとひきずりながら。

ちょうど彼氏のアパートに到着したとき、九州に逃げていた彼氏が出頭した。

「毎晩、毎晩、彼女が夢枕に出たんですよ」

彼氏は震えながら、当時周囲の人にそう語ったという。

木田の幽霊が川沿いを移動している間、彼氏は各地を転々とし、木田の幽霊が彼氏のアパートに辿りついたとき、彼氏が逮捕されたのだ。

これは偶然か、必然か。

あの深夜の行進は、木田が彼氏を恨んだ結果だったのであろうか。それとも、愛する彼氏に罪を償ってもらいたかっただけなのであろうか。私は後者のほうであったとしか思えない。

その後、川本は実家が経営していた会社がつぶれ、父親が病に倒れ、看病疲れで母親も亡くなった。

川本は、46歳の今も家に引きこもっている。

シェアする

フォローする