足ぶらぶら(神奈川県横浜市神奈川区) | コワイハナシ47

足ぶらぶら(神奈川県横浜市神奈川区)

神奈川大学時代、私は、横浜市の神奈川区に下宿していた。

風呂なしでトイレは共同であり、おまけに部屋の床は斜めになっており、朝目覚めると全然違う場所まで転がっていることも度々あった。隣室の若い奴は、毎朝お経を大声であげ、下の部屋のおっさんは真夜中まで飲んだくれていた。この下宿時代、バイトして購入した原チャリで、横浜周辺を走り回るのが好きで、近郊の友人の下宿によく遊びに行った。

中でも群馬から上京していた法学部の池ちゃんとはうまがあった。同じプロレスマニアであり、サブカル好きの池ちゃんの下宿には、毎週のように遊びに行った。池ちゃんの下宿は横浜市の菊名にあった。

「この部屋、やばいんじゃない」

「やはり、そう思うか、このドアじゃ無理もねえな」

池ちゃんは苦笑した。最初、池ちゃんの下宿に行ったとき、ドアの在り処がわからなかった。一見、壁のように見える場所を押すと観音開きのドアがせり出すのだ。

「どう見ても、隠し部屋だぜ」

「まぁ、否定はできないな」

池ちゃんは苦笑した。私は好奇心が抑えきれなくなってきた。

「昭和中期までは座敷牢ってあったからね」

「あれかな、一族の爪弾つまはじき者や病人を閉じ込めていたのかね?」

池ちゃんは不安そうに言った。この古い日本家屋を改良したアパートは、私や池ちゃんと同じ神奈川大学の学生が多数住んでいた。

結局、なんのための部屋だったのか不明なままで終わったが、一度だけ妙なことがあった。深夜まで大騒ぎしたあと、池ちゃんと私は雑魚寝していた。何時間経ったであろうか。

(……んっ、おかしい)

うっすらと目を開けた私は、室内の空気の異変に気がついた。異様な匂いがするのだ。かび臭いというか、魚が腐ったような匂いというか。

「臭い、底抜けに臭い」

さっきまで、酒を飲んで騒いでいた空間とはまったく異質である。まるで寝ている間に、異空間にタイムトラベルしてしまったかのようである。

「何かが違うな」

上半身を起こした。周囲を見渡すが、部屋の外見そのものは何も変化はない。

(おかしい……)

神経を尖らせ、周囲に気を向けてみた。何とも言えないこの違和感。その違和感の元凶が天井から粉雪のように降りてくるのがわかった。

(妖気、霊気、上なのかな?)

ゆっくりと上を見た私の視界に──足が映りこんだ。

真っ白な足が天井からぶら下がっている。ぷくぷくと肉付きのよい足が、

(ぶらん、ぶらん)

とぶら下がっているのだ。

「……足、足だ」

これはいったいなんだろうか。私は、天井を突き破りながら巨大な足が降りてくる「足洗い屋敷」伝説を思い出した。だが、それに比べたらやたらに地味である。暗闇に薄ぼんやりと浮かびあがる白い足。

(どうやら、実害はないようだ)

天井からぶら下がり、ぶらぶらしている足。

それを見ながら私は二度寝をした。翌朝、何もなかったので見た事実だけを伝えたが、池ちゃんは、

「はざまのネタだな、俺を怖がらせようと思って言ってるんだろ?」

そう言って笑った。

数日後、大学のキャンパスで会った池ちゃんは顔色が悪かった。

「どうしたんだ? 池ちゃん」

「いやぁ、大工の父ちゃんが屋根から落っこちちゃってね」

「まじか? 大丈夫なのか? 親父さん」

「あぁ、骨折したようだよ。足をね」

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