大学卒業後、日本通運に入社した私は、船橋支店に配属された。当時、船橋支店は大型荷主に恵まれ、空前の実績を誇っており、千葉特定支店の管内にありながら、船橋特定支店と呼ばれるほどの勢いを誇っていた。
私は坂本龍馬に憧れて運送会社に入社したものの、新入社員がそんな大きな仕事をまかされるわけもなく、慣れない現場仕事に忙殺される日々を送っていた。
その船橋支店の片隅には、小さな祠があった。一見ごく普通に見える祠だが、一種近寄りがたい不思議な空気を醸し出していた。
「あの祠って、なんですか?」
私は先輩に聞いた。
「あぁ、昔からあるやつだが、あまり関わらない方がいいぞ」
そう言って先輩方はお茶を濁した。この祠は船橋支店が建てられる前からあるもので、この場所に古くから祀られているものだという。
そして、大変不思議なことだが、この船橋支店の前の道路は事故多発スポットであった。
「キーッ、ガッシャン!!」
「おっ、またやったぞ」
「また、事故か」
車のクラッシュ音が聞こえると、先輩たちは一斉に事務所の窓を開けて口々に叫んだ。場合によっては、通報したり怪我人の救助にあたるためである。
「いつも、ここだな」
それは、確かに不思議であった。いつも、いつも。──ちょうど祠の裏側で事故が起きるのだ。1度や2度ではない。年に5〜6回は起きていたと記憶している。
それが数十年続いているのだ。件数にしたら、もの凄い数になるではないか。確かに見通しが悪い場所ではあるが、あまりにも多すぎる。
その後、あるベテラン社員の方に聞いた話によると、この祠は元々は船橋支店敷地内のほかの場所に設置されていた。その場所こそが、船橋支店ができる前からあった正統な設置場所であった。だが、倉庫を建設するときに建設業務の邪魔になるということで、敷地の端っこ、現在の道路沿いに移されたのだ。
この移動の際、妙な事件が起きているという。この祠の移動が決まったとき、流石に誰も手を挙げなかった。
「おまえやれよ」
「おまえこそ、どうなんだ」
みんなが躊躇する中、1人の作業班長が名乗りをあげた。
「おいおい、いまどき、祟りとかあるめえよ」
そう言って、祠を抱えると敷地の端っこまで運んでしまった。
「どうだい、これで問題ないだろう」
班長はおおいばりであった。
だが、祟りはこれからであった。──その後、班長は突然死んでしまったのだ。
「やはり、祟りがあったのだ」
「あの祠は移動してはいけなかったのだ」
支店の人々は祟りだと噂した。
だが、2人目の犠牲者が出ることになる。倉庫を建設していた建設会社が雇っていた職人が、1人転落死したのである。
その転落死体は、突き出した梁の先端にあった鉄筋で頸部が切り裂かれ、首がもげている状態であり無残な死に様であったという。
しかも、その場所は──祠のあった場所であった。こんな話を聞かせてくれた先輩も、数年後死んでしまった。その先輩の死は、違う支店にいたときに聞いたのだが、同時に不気味な逸話も伝わってきた。
「あの人さぁ、『支店長車』を運転している時に、あの祠の鳥居にぶつけちゃったんだよね」
これで、三人目である。