血だらけの浴衣と花火に消えた女性(滋賀県彦根市) | コワイハナシ47

血だらけの浴衣と花火に消えた女性(滋賀県彦根市)

ついにバレンタインデーを超えたといわれる十月末のイベントの狂騒ぶりをテレビで見ていて、以前知人から聞いた「群衆のなかには一定数この世の住人でない人たちが紛れ込んでいる」という言葉をふと思い出した。

「生きた人間かそうでないかは状況から判断するしかない」つまりそれほど見た目の差がないということも。

知人曰く、電話ボックスとコンクリート塀の数センチの隙間に立って微笑んでいる人がいればそうだし、真冬に時代遅れの夏服のまま颯爽と歩いている人もそういう可能性は高いということになるらしい。

いわゆる霊感のない人も、普通に目に入っているのだがそれを幽霊だと気づかずにいる、ということもよくあるのだそうだ。

とはいえ、ハロウィンのように街中に死人やゾンビが闊歩している状態では、その判断もままならないだろう。

人混みのなかに紛れ込んだ怪異。

こんな話がある。

-浴衣-

琵琶湖の東部彦根市に住む七十代の女性芳江さんからお聞きした話である。

十代の頃友人と行った地元の花火大会で、こんな体験をされたという。

当時は、打ち上げ会場のすぐ近くまで行けば露店が並び明るく賑やかだったが、まだ周辺の生活道路には街灯も整っておらず夜道は暗かった。

さらには、水田や畑の農道を通って浜辺の会場に向かう方が近道だということで、見物客はほぼ月明かりだけを頼りに暗い道を行列のようにぞろぞろと歩いて会場に向かうのが恒例だったという。

少し前を歩く白い浴衣を着た女性がふと目に入った。

うしろ姿だったが、落ち着いた感じの二十代に見えた。長い髪が上品にまとめられている。

多くの人が歩いていたためにその姿は見え隠れしながらではあったが、暗い中にも肌が透けて見えそうな美しい綿呂(という浴衣の生地があるとのこと)の浴衣が印象的だった。

浴衣には淡い紫色で朝顔が描かれていた。

すると突然、その女性の右肩あたりに黒い点が現れた。

虫でも止まったのかと思ったが、どうやらそうでもなさそうだ。

あっ、血だ。

芳江さんははっと息をのんだ。

吹き出物が潰れたのだろうか。他人事ながら綺麗な浴衣が心配になった。

最初は虫刺され程の点だった赤い滲みが、すーっと、大きくなっていく。布にどんどん水が滲みていくときの速度だった。

赤い滲みは十円玉程の大きさになり、やがてリンゴ程の大きさになった。

赤い滲みは、まるで波紋のように拡がり続ける。

暗い中でも、その染みが鮮やかな赤色をしているということが、なぜかはっきりとわかった。

やがて右側の肩から背中にかけてが真っ赤になった。

刃物で刺されたか、鉄砲で撃たれたような勢いだった。

ところが、女性は何事もないようにまっすぐ前を向いて歩いている。

芳江さんの友人をはじめ、彼女のうしろを歩く人たちはなぜ何とも思わないのだろう。不思議に思いながらも、このままではいけないと焦り始めた。

やがて白い浴衣の背中一面が真っ赤に染まった。

このままいけば、彼女は死んでしまうかもしれない。

「ちょっと、あの人、大変や……」

芳江さんが友人の肩を叩きかけたとき、

どーんっ、という大きな音とともに、一面が明るくなった。

花火大会の一発目が打ち上げられたのだった。

浴衣の女性は、眩い光に溶けるように消えたという。

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