茶色のセダン(宮崎県日南市) | コワイハナシ47

茶色のセダン(宮崎県日南市)

私の友人が十年ほど昔、九州へ新婚旅行に行った時の話である。

夜遅く、ふたりは日南海岸のパールロードを走っていた。予定ではとっくに旅館へついているはずだったが寄り道のしすぎで遅くなってしまったのだ。

パールロードは左が山、右が海で道路全体の見通しがよく、対向車のヘッドライトもはるか先を行く車のテールランプもよく見える。ただ、車の数は少なく、とても寂しいところであったという。

うしろから来た茶色のセダンが猛スピードで追い越していった。

ふたりも早く旅館につきたいがためにかなりスピードを出していたのだが、追い越していったセダンのテールランプはあっという間に見えなくなった。

「えらいスピードで飛ばしてんねんやなぁ」

しばらくするとまた茶色のセダンがうしろから猛スピードで追い越していった。

「あれ?」

と思ってそのセダンをよく見る。

セダンはすぐ先にあるカーブを曲がって見えなくなる。

つづいて彼の車がカーブを曲がる。

視界はふたたび開けるが、前を走っていたはずのセダンの姿がない。

アクセルを踏んでスピードを上げるが前を走る車はない。先ほどの茶色のセダンは消えたとしか考えられない。

「今、茶色のセダンが追い抜いていったよなぁ」

隣の新妻に確認を求める。

「うん、さっきから何台も追い抜いていったけど、みんな茶色のセダンやねぇ」

「何台も!?」

彼はCB無線を積んでいた。さっそく前を走る車を呼び出してみた。

即、応答があった。トラックの運転手で、五キロほど先からこちらに向かって走って来ているようである。事情を説明すると、三キロほど先にパーキングエリアがあるからそこで待ち合わせよう、ということになった。

パーキングエリアにはすでに大きなトラックが停止して待っていた。

「どうも、先ほど無線で連絡したものです」

「やぁ」

気さくそうな三十代の運転手が降りてきた。互いの自己紹介のあと、聞いてみる。

「ところで茶色のセダンは通りましたか?」

「いゃあ、通らんなぁ」

「おかしいなぁ。確かに僕の車を茶色のセダンが追い抜いていったんですよ。嫁はその車が何回も追い抜いた言うてますねんけどねぇ」

「途中で停車して、また走った……故障したか、事故にでも遭うたか」

「そんな形跡なかったけど、そうしか考えられませんなぁ」

「よっしゃ、もっぺん無線で呼び出してみるわ」

運転手は運転席の無線を取ってふたたび呼び出しをはじめる。

応答があった。これもトラックの運転手らしい。友人が通って来たのと同じ方向からこちらへ向かって走っているようだ。

「茶色のセダンを見たら知らせてください。もしかしたら事故でもあってどこかに落ちているかもしれないので」

「茶色のセダンなら今わしの車を追い抜いたとこやで」

「なんや、ほなら茶色のセダンは無事やったんや」

「やっぱりどっかに停まっとったんやな」

わずらわしいものがなくなり、なんだかホッとしたそうだ。

しばらくして、先ほど無線でやりとりしたトラックが入ってきた。

「おたくらですか?お捜しのセダン通ったでしょう」

「いや……」

結局、事故の可能性があるからと非常電話で警察と道路公団に届けたが、どちらも「また出ましたか」と意外にも冷たい反応で、出動してくれる気配さえなかったという。

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