彼女の墓(京都府) | コワイハナシ47

彼女の墓(京都府)

私たちがしきりに学生映画を撮っていた頃、映画に出演していただいた中年の男優さんが酒を飲みながらこういう話をしてくれた。

映画の撮影で京都にやって来た時のことである。雨でロケが中止となり、一日身体があいたのでひとりで京都郊外の秋を見に遠出することにした。

小雨の降る京都の紅葉を楽しみながら、彼はふとある女性のことを思い出した。

その彼女とは深く愛し合ったが、親の反対を押し切ることができず、結ばれることはなかったという。かなり昔の話だ。

なぜ、ふと彼女のことを思い出したのか。そうか、京都は彼女の生まれ故郷だったな。今、彼女はどこでどうしているのだろう。きっと誰かのいい奥さんになって、幸せになっているだろうなと感傷にふけった。

はっと気がつくと、自分がどこを歩いているかわからなくなっていた。まわりは雑木林で、道は細く曲がりくねっている。

ここはどこだろうと思ったが、この先でなにかが待っているような気がして、そのまま道を歩きつづけた。

すぐに墓地が見えた。

最初に目に入った墓を見て、心臓が止まる思いをした。

幻か、偶然か、そこには彼女の名前が刻まれていたのだ。

姓が変わってないということは、彼女はあれから間もなく、独身のまま死んだのか。

近くで野の花を摘み、墓に供えて手を合わす。

彼は彼女に語りかけた。

君は僕のことを忘れないでいてくれた。そして、僕をここへ呼んだね。本当にすまないことをした……。

そして、念仏を唱え、またここへ来ることを約束して帰ったのである。

撮影が終わり、京都を離れる前日、もう一度あの墓へ行こうとしたが、どうしても道が思い出せない。いろいろ道行く人に尋ねたのだが、ついにふたたびあの墓地に行くことはできなかったという。

★第九十一話神社の犬(熊本県阿蘇市)

知り合いのある女性が、同じ夢をよく見るのだと言っていた時期がある。

その夢にはいつも同じ神社が出てくるのだ。

あまり毎晩同じ夢を見るので、ある人にその様子を詳しく語ったところ、どうもそれは九州の阿蘇神社ではないかと言われた。

それを聞いて、早速彼女は東京から九州の阿蘇神社まで出かけて行った。

はたして、その阿蘇神社は夢で見たものとそっくりそのままであった。

それほど大きな神社でもないのだが、それにしても参拝の人影もなく、宮ぐう司じさんも巫み女こさんの姿も見当たらない。

小さい社やしろの裏に回ると、大きな木の切り株があったので、彼女はそこに腰掛けた。いつのまにそこに現れたのか犬が二匹、こちらを見つめている。その犬はなんとも形容のしがたい美しい犬であったのだという。

一匹はスピッツをひとまわり大きくしたような純白の毛並みの犬。もう一匹はさらにひとまわり大きく、シバ犬によく似た純白の犬で、堂々とした威厳さえ感じられる。どちらもよく手入れがしてあるが、首輪がない。

この二匹を見た瞬間、彼女はこの世のものとは思えないりりしさと、美しさを感じた。神々しいとさえ思ったという。

その二匹の犬は呼びもしないのに近づいてきて、膝ひざの上に頭を乗せ、彼女の顔を覗のぞき込むように甘えてくる。

彼女が犬の頭を三回撫でると、二匹の犬は社の向こう側に向かって歩いていった。二匹のうしろ姿が非常に仲むつまじく、いたわり合っているように見える。思わずその犬の後をついて行くと、犬とほぼ一緒に社を曲がったはずなのに、その犬の姿がかき消えたように見当たらない。はて、と思ってあたりを見回すと、そこには数人の参拝する人たちや、巫女の姿があった。その巫女の立ち居振る舞いを見ていると、つい先ほどまでいなかったとはとても思えなかったと彼女は言う。

阿蘇神社に詣ったあとは、夢に同じ神社が現れることはなくなったという。

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