秋 リンゴ畑の腕(青森県弘前市) | コワイハナシ47

秋 リンゴ畑の腕(青森県弘前市)

先日弘前市内での移動中、タクシーの運転手さんと他愛のない世間話をしていると、こんな話を聞くことができた。

貝塚さんの家は、代々りんご農家を営んでいる。

昔は春夏秋冬の寒暖がしっかりしていたため、味にも収穫量にも自信があったのだが、ここ最近では季節の蓋を開けてみるまで、正直何とも言えないとのこと。

「まあ、それはそれでしょうがねえけんど。秋口の台風だけは昔っから天敵だね。あれは、ほんとこっちの事情なんかお構いなしだから厄介だ」

台風予報があると、農家は対策に追われる。

「カミ東京方面から近付いてるぞ、何て頃にはこっちももう降ってるからね。ネット張るにしても、支柱を立てるにしても、手が悴かじかむし、びしょ濡れになるしで、大変だよ」

今でも大変だが、小さい頃は手伝いが本当に嫌だったそうだ。

「小学生の頃一度ね。台風来るから学校休んで手伝え、って言われてね」

学校が楽しかった貝塚さんは、腹立たしい気持ちを抱え、幼木を守るための支柱運びを手伝った。

風は強く、小雨も混じっていたが、例年騒ぐほどの台風に見舞われていなかったため、はなから徒労感があった。

こったもん、いらねべ。

面倒くせぇ。

猫車に運べる分だけの支柱を積んで押している最中に、猛烈に手伝いから逃げ出したい衝動に襲われた。

恐らく自分一人が抜けたくらいで、何が困るということもないだろう。

子供の手がないとダメな訳ないべ。

みんな大げさだ。

辺りを見渡し、誰もいないことを確認すると、貝塚さんは猫車をどんと投げるように横倒し、りんご畑の中を学校に向かって走った。

子供なりに、授業に参加してしまえばなあなあで何とかなるだろうと踏んでいた。

じっとりと濡れながら、りんご畑を駆け抜ける。

と、むんずと肩を掴まれ、

「馬鹿っけこの!」

と大声で怒鳴られた。

捕まった。

観念して、振り返る。

一本のりんごの木から腕が生えており、貝塚さんの肩を掴んでいた。

つるっとした白い腕だったが、いかにもしなやかな筋肉を持っていそうな、もっちりした肉質だった。

「うわあ」

と尻餅をついたときには腕は消えていたそうだ。

シェアする

フォローする