トンネルの中にいるもの(兵庫県西宮市) | コワイハナシ47

トンネルの中にいるもの(兵庫県西宮市)

ある女子高生から聞いた話である。

クラスメイトが風邪をひいて休んだまま、なかなか登校してこない。心配になって数人で彼女の家にお見舞いに行った。彼女は自室で青い顔をして、寝ていた。

ここ数日でずいぶんやせたようだった。

「早く風邪よくなってね」

「……うん。ありがとう」

「あんたが来ないと寂しいやん」

「……うん」

元気がない。ちょっと人が変わったようにも見える。

やがてみんなが帰ろうとした時、ぽつりと彼女が言った。

「ねぇ……私の言うこと信じる?」

「えっ、なに?」

「信じる?信じてくれる?」

「なにを?」

「私……本当はね、風邪じゃないの」

見舞いに来ていた全員が、彼女からとんでもない告白をされるような気がしたという。なにか彼女の雰囲気が尋常ではなかったからだ。

それは数日前のことである。

彼女の兄が新車を購入した。さっそく試運転をしようと兄とそのガールフレンド、そして彼女の三人で夜中のドライブに出かけた。

どこに行こうか、そうねぇ、夜景のきれいなとこ、私はそれよりなにか怖いところがいい、あっ、だったら私、怖いところ知ってる、そこおもしろそう、じゃあそこへ行こう、ということになり、あるトンネルを目指したのである。

そこは、〝出る〟といわれる曰いわくつきの場所だった。

やがて、そのトンネルが見えてきた。

ほらほらぁ、出るわよぉ、もうちょっとでトンネルよぉ……なんだか三人はハイな気持ちになってくる。

トンネルに入った。その瞬間である。

どんという衝撃が車の中を走った。

「きゃあー!」助手席のガールフレンドが悲鳴を上げた。

助手席側のドアのガラスに、手が、手首が、べったりと貼りついている!

運転している兄貴も悲鳴を上げた。

兄の目の前のフロントガラスにも手が貼りついている。

ばーん、どーん、ばーん、車に物もの凄すごい音と衝撃が連続して起こった。

手が、次々とトンネルの暗闇から現れては車を叩いて貼りついていく。

何十か、何百か、とにかく無数の手が窓ガラスを、ドアを、ボンネットを、トランクを……。

「きゃー、たすけてー」

どうやって家まで帰って来たのか、三人とも覚えていない。

とにかく三人はその夜、なかば精神錯乱の状態で兄の部屋で肩をよせあって朝になるのを待ったのである。

やがて、空は白み、太陽がのぼった。

あれはきっと夢だ。夢にちがいない。三人は無理やりそう言って慰めあった。だが、様子を見に部屋にやって来た母親の言葉で三人はふたたび震え上った。

「まあ、どうしたの?せっかくの新車に手のあとをべたべたつけて……」

「その怖さで寝込んでいたの……ごめんね、心配かけて」

彼女はそう言って泣いたという。

同じ場所で、同じような体験をした人の話。

メンバーは男女四人。その中のひとりだったという女性がこれを話してくれた。

やはり夜のドライブで、今度はそのトンネルの先にある〝手振り地蔵〟を見に行った帰りのことである。

この〝手振り地蔵〟は地元ではかなり有名なもので、墓地の中に立つ、とてつもなく大きなお地蔵さんだ。ある角度から見ると、そのお地蔵さんが手を振っているように見えることがあるらしい。手を振る方向によっては不吉なことが起きるという噂もある。

彼女はそのお地蔵さんのことは何も知らず、ただついて来ただけであったが、実際に手を振ったように見えたのでそれを仲間に言うと、あとの三人は急に真っ青になって、不吉だからすぐに帰ろうということになった。

帰り道、車が猛スピードでトンネルの中に入った瞬間、どーんという衝撃が車を襲った。

「ふせて!」

後部座席に乗っている彼女の隣の女友だちが、頭を押さえつけ、そのまま身体ごとのしかかってきた。

「ちょっと、何するのよっ」

「ええから、トンネル出るまで辛抱し!」

わけがわからず抵抗する彼女を、その友だちはまるでガードするように押さえ込んでいる。

しばらくはその凄い力にまけて、言われるがままにしていたが、やがてようやく彼女は頭を上げることができた。

車はもうトンネルを抜けてそのまま下り坂を走っていた。

「なによ、なにするのよ」

彼女が抗議すると、隣の友だちは言った。

「トンネルの中を腕が飛んで来て、窓をこじ開けようとしたのよ。……見てはならないものを、見なくてすんだのよ」

変なことを言う子だなと、ふと自分の側の窓を見ると、確かにぴったりと閉まっていたはずの窓ガラスがちょうど腕が入り込めるくらいに開いている。そして前の座席のふたりもなかば泣きそうな青い顔をしてずっと沈黙している。

結局、なにかが起こったのは間違いないようだと察したが、彼女はそれを見なかった。

ただ、自宅まで送ってもらって車を降りた時、その車にてのひらのあとが無数についていたのを、確かに見たそうである。

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