トンネルの中の8ミリ・フィルム(奈良県) | コワイハナシ47

トンネルの中の8ミリ・フィルム(奈良県)

大阪と奈良とを結ぶ私鉄電車のトンネルにも〝出る〟という話が無数にある。

だいぶ前だが、奈良の地方新聞に衝撃的な写真と記事が掲載され、友人から見せてもらった。

電車の座席に女の人が座っている写真なのだが、うしろの窓ガラスに外からべたっと人間のてのひらが貼りついていた。

本当に出るのなら、映画のフィルムにおさめてやろう、と計画して実行したやつがいる。大学時代、映画を撮っていた仲間で私も無理やりその計画に参加させられた。

もっともこの時は幽霊を撮ることが第一の目的というわけでもなく、当時の8ミリ・カメラの最新鋭機種フジZC‐1000のカメラテストも兼ねての、あくまでイメージフィルムの中のワンシーンのロケということであった。しかも、〝出る〟と有名な第一トンネルはいくらなんでも怖いので、第二トンネルで撮ろうといったような、心意気のわりには弱腰な計画であった。

メンバーは男ばかり三人。

夜の十時頃、奈良市の友人宅を車で出る。

途中で飯を食ったりして、現場には一時頃についた。もう最終電車は出てしまって、電車がトンネルを通ることはない。

線路の点検車が通るがそれがここを通過するのは三時頃である。それまでに撮影を終わらせてしまわなければならない。

車はトンネルの近くの鉄道と道路が交差する橋のたもとに停めた。

さて、私はここで車の中で留守番をするという非常に嫌な役を仰せつかった。車内には他の撮影に必要な機材が入っていたからだ。

やがてふたりは、8ミリ・フィルムのカメラと小道具を持って、トンネルに向かっていった……。

あたりは真っ暗で人家は何軒かあるのだろうが、いずれも電気は消えている。ただ待っているというのもあまり心地のよいものではない。

しばらくして、ふたりが戻ってきた。カメラの電池を取り替えに来たのだという。今替えたばかりやぞと言うと、そのはずやけどカメラが動かないから……と言って電池を取り替えて出て行った。

しばらくしてまた戻ってふたたび出て行く。トンネル内の状況を聞くと、別になにも現れていないが、カメラが動かないところをみるとなにかがおるのやろうなぁ、とか言っている。

午前三時前ようやく撮影が終了し、ふたりが戻ってきた。

なにも出なかったし、カメラも最後は順調に回ったし、まぁ、よかったでこの日は終わったのである。

さて、彼らはトンネルの中で、線路に沿って灯のついた数十本のろうそくを二列に並べて、暗闇の中に浮かぶろうそくの灯火というイメージショットを撮ったのである。夜中の二時に、出るといわれるトンネルの中でろうそくを奥まで並べて、それをフィルムに撮影するなど正気の沙さ汰たではない。

数日たって電話があった。現像ができたから見に来いという。

「なにかへんなもんが写っているぞ」というので急いで彼の家に行った。

エディターで見ると、カメラは見事にろうそくの灯火の列を幻想的にとらえている。それは何とも不気味な画面だ。すると、突然カメラの前に白いシーツのようなものが現れて、ろうそくに沿ってトンネルの奥へ向かってゆらりゆらりと飛んでいく。そして、ふっと消えるのである。もう一度見る。やはり同じ現象が起きる。その間約十秒ちょっと。

ろうそくの灯以外の光はない。照明は焚たいていないのでまずハレーションではないことだけはわかる。それ以外のことはなにもわからなかった。

このフィルムは作品の一部に編集され、大学のホールで上映された。

8ミリ・フィルムの解像度の低さと、被写体が暗かったこともあって、エディターではあれほどはっきり見えた白い怪しいものも、大スクリーンに拡大すると、解像度が極力落ち込んで、観客のほとんどは、それに気づかなかったという。

フィルムは彼の手元にあるはずである。

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