家を守る子供 座敷わらし(長野県) | コワイハナシ47

家を守る子供 座敷わらし(長野県)

Mさんという初老の紳士が十数年前、木曾の山村のある旧家に出向いた。そこはかなり大きな屋敷であった。

その家には娘さんがいた。旧家だけにさまざまな見合い話が舞い込んでくるのだが、彼女には好きな人がいたらしく、まったく乗り気ではなかったという。ところが、家族はもとより親戚一同が必死になってまとめようとする縁談が持ち込まれた。困り果てた娘さんから、断るため両親を説得してもらえないか、という相談を受けてMさんが木曾まで足を運んだという次第である。

御両親とは親しくしていたので、その日は手厚くもてなされ、詳しい話はとりあえず明日ということになった。旅の疲れもあって早めに就寝したいと言うと、さっそく奥座敷に通された。

まだ夜の九時にもならない時分だったという。

十二畳の広い座敷の真ん中に布団を敷いてもらい、真っ暗闇の中、うつらうつらと眠りかけると、廊下をたったったったっ……と、子供が走る音に起こされる。そのまま布団を頭からかぶって、それでも目をつむっていると、子供の足音が襖ふすまの向こう……隣の部屋へ入った。

たったったったっ……ばん、ばん、ばん……

しばらくして、しーんと静まったかと思うと、ざーっ、ざーっ、ざーっ、とすり足で畳を歩く音。それがいつのまにかこの部屋の中に入り込んでいる。

そのうち足音は、ざっざっざっざっと、Mさんの布団のまわりをぐるぐると回りはじめた。

ははぁ、これは遊んでほしいとねだっているのだな……

Mさんはそう思ったが、疲れのせいもあって知らんふりをして、布団から一切顔を出さずにいようと決め込んだ。

すると、今度はその子が、布団の隙間を覗うとしてしゃがみ込んでいる気配がする。Mさんは寝返りを打ったふりをして、その子に背を向け無視しつづけた。と、しばらく静かになったかと思うと、今度はぽーん、ぽーんとその子が頭の上を何度か飛び越して遊んでいる。かと思うと、今度は肩のあたりをしきりに揺さぶる。そして、どんっ、と、子供が布団の上からのしかかってくる重みがする。

しばらくして子供の気配は消えた。

やれやれ、と思ってまたうとうとしかけると、ズズッと布団が引っ張られて、身体がガクンと揺れる。

それはあとで思ったことらしいが、どうもその子は幼稚園か、せいぜい小学生の低学年くらいだと思っていたのに、大人の寝ている布団を引きずるような力を持っているのがどうも納得できなかったという。それに、この家には、小さな子供などいなかったはずである……。

とにかくその時は、ズズッ、ズズイッ、ズゥーッと、どんどんと引きずられ、ドンという音がしてなにかに当たった感触がした。

とうとう襖のところまで引きずられて来たか。

あきらめて布団から顔を出すと、目の前にある両方の襖がスパンッと音をたててわかれ、隣の部屋が現れた。瞬間、とてつもない力に押されて布団もろともゴロゴロと転がされる。凄すごい勢いで転がっていったかと思うと、また、次の部屋に通じる襖が両方に、スパンとわかれ、次の部屋をそのまま転がっていく。いや、Mさんにしてみればそれは、転がるというよりも空中を飛んでいる感じであったという。

スパンッ!スパンッ!次々に行く手の部屋の襖がわかれ、あっという間に玄関の板の間まで転がって、バーンと布団もろとも外にほうり出される。

「わぁっ!」

飛び起きると、もう朝だった。

玄関ではなく、ちゃんと十二畳の奥座敷にいた。ただし、部屋の隅の襖のところまで布団もろとも移動していた……。

しばらくして、この縁談は取り止めになった。気のせいか、その夜の不思議な出来事をその家族に話した時から、みんなこの縁談に対する態度が一変したようにも思える。

あとになって、Mさんはそこの娘さんからこんな話を聞かされた。

実は、あの縁談は両家の親が取り決めたことであり、それはお互いの家柄を考慮してのことだった。ところが、そのあとよく相手のことを調べてみると、資産家だと思っていたのがまったくの逆で、膨大な負債を抱えており、相手が財産目当てであったことが発覚したのだという。

そしてそれは、あの晩に、あの子が出たと聞かされてから、もう一度詳しく先方のことを調べる必要があると感じたからであった。

「それと私となんの関係があるのか?」

Mさんは聞いた。

「あなたは、実はあの縁談をまとめようとしていたのではないのですか?」

彼女は問う。

……実はMさんは、彼女に相談を持ちかけられた頃、内々に御両親からもこの縁談を娘が承諾してくれるように計らってくれないか、という相談を受けていた。Mさん自身も縁談としては悪い話ではなかったので、彼女には申し訳ないが取りまとめるつもりでいたのである。

Mさんはそれを話した。

「だからあの子は、あなたに出ていってもらおうとしたのでしょう。あの縁談がまとまれば家も大きな負債を抱えることになったはずですから。家はあの子に守られているんです。しばらく出なかったのですけど」

そして、彼女からその家に昔から出るという不思議な子供の話を聞かされたのだ。

それが座敷わらしというものだとあとで知ったと、Mさんは言った。

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