起きてみたら(東京都) | コワイハナシ47

起きてみたら(東京都)

ある日曜日の夜、私のところに東京の友人から電話がかかってきた。

「俺、いま友だちのところから電話してるんや、もう俺、自分のアパートよう帰らん」

「なにがあったんや?」

「俺の言うこと噓やないねんで。ほんまやねん。信じてくれるか?」

なにか電話の向こうの彼の声や口調が尋常ではない。

「そやからなにがあった?」

「お前、信じいへんかもしれんけどな」

ことは数日前から起こりはじめた。

会社から自分のアパートに帰ってみると、いつもはあんなにメチャメチャに散らかっている自分の部屋がきれいに片付いている。

「あれ?片付けた覚えなんかないのになぁ」

ひとり住まいの彼の部屋の鍵を持っているのは、彼のほかにガールフレンドがいる。ははぁ、彼女が来てくれて俺のいない間に部屋を片付けていってくれたのだな、珍しいこともあるものだ、とその日は別に気にもとめず、きれいに片付いた部屋に寝たのである。

とはいうもののなにせ男のひとり住まい、二、三日後は元の木もく阿あ弥みである。

ところが、また会社から帰って来ると部屋がきれいに片付いている。

また彼女が片付けたのだろうと電話してみる。

「ばかねぇ、なんで私があんたのキッチャナイ部屋を掃除しなければならないのよ。だいいち私だって仕事があるのよ。頼まれても嫌よ」

ちょっと冷たいが、彼女の言うことはまずそのとおりだ、と彼は納得せざるを得ない。

部屋中の点検をしてみる。なにかなくなってはいないだろうか?自分にしかわからないものはどうなっているのか?

本棚の雑誌はバックナンバー順に、机の引き出しの中の小物からガラクタまで全部完璧に自分の所定の位置にきっちりと収まっている。台所の食器類は洗って水屋の中に、生ゴミはきれいに処分してある。押し入れにつっこんでいた汚れた下着類は洗濯してあるうえにちゃんとたたんで押し入れの中に入れてある。財布の中、貯金箱の中、預金通帳などにはなんの異常もない。

おかしい、というより気味が悪いのが先立った。

部屋のあちこちをひっくり返して見ているうちに疲れも出てきて、めんどくさくなり、まぁいいか、と楽天的性格も手伝ってその夜は寝てしまったのである。

朝、起きて彼はあ然とした。

昨夜ひっくり返したように散らかしたはずの部屋が、またきれいに片付いて、掃除までしてあるではないか。

彼が寝ている間に、誰かがこの部屋の掃除をしたのだ。

日曜日。

わざと散らかした部屋の真ん中に、どっしりとあぐらをかいて、彼はひとりでその何者かが現れるのを待った。

ひとりで部屋にいるのは退屈である。疲れも手伝ってかベッドに寝っころがってマンガを読んでいる間についうとうとと眠ってしまった。

はっ、と目が覚める。

もう部屋はきれいに掃除してある。

不思議だ。考えられない。散らかした部屋にいた自分が夢なのか、きれいに掃除をすませてある部屋にいる自分が夢なのか……。

調べてもきれいに掃除してあるということ以外はなんの異常もない。

そうだ押し入れのタンス。ここは前に調べた時、見逃していた。

一段目の引き出し、ほとんど着ない服がやはり洗濯してある。二段目の引き出し、同じく三段目、四段目、そして一番下の引き出しを開ける。

「わぁー」

一番下の引き出しの中には、ひとりのお婆さんがいたのだ。

小さな座蒲団の上に正座をして、紫色の着物を着た小さな小さなお婆さんが。

そのお婆さんは、にっこり微笑んで、丁寧にお辞儀をしたのである。

彼は数日間、この友人宅に居候したあと、すぐ引っ越してしまった。

もったいない話だと友人は思ったという。

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