影 小原慈母観音(宮城県白石市) | コワイハナシ47

影 小原慈母観音(宮城県白石市)

神奈川県在住の健太郎さんが数年前、妻の故郷・白石市で過ごした時のことだった。

ある日、健太郎さん夫婦は国道113号線をドライブした。天然記念物の「材木岩」に寄って、「七ヶ宿ダム自然休養公園」まで行くというコースだ。

材木岩に行くまでの道のりで、妻は「ここはカーブやトンネルが多くて、事故が多い道なの」と語った。そのため、交通事故犠牲者を追悼し、交通安全を祈願した「小原慈母観音」が祀られているのだそうだ。

実は妻の知り合いも、ここで交通事故に遭ったことがあるという。それを聞いた健太郎さんは小原慈母観音にお参りしたいと思った。

東京の下町の大家族に生まれた健太郎さんは、信心深い曾祖母に可愛がられた。そのため、神社仏閣に手を合わせる習慣が身についていたのだ。

しかし、妻からその話を聞いた時には、もうすでに小原慈母観音を通り過ぎていた。そのため、帰りに立ち寄ることにした。

二人は材木岩に到着した。「材木を縦に並べたように見えるね」「神秘的だわ」などと言いながら見物。その後は、目的地の七ヶ宿ダム自然休養公園を目指した。

園内はアスレチックゾーンがあったり、ウインドサーフィンやカヌーを楽しむことができたり、夏休みにピッタリな場所だった。

二人で湖を眺めながら夕方までのんびり過ごしていると、急に黒い雲が空に湧いてきた。見る見るうちに辺りが暗くなり、自動車に戻った時には雨が降り出した。二人は急いで自動車に乗った。

雨の中、健太郎さんは来た道を戻り始めた。小原慈母観音に寄るまでには、いくつかのトンネルを通り抜けることになるのだが、その中の一つで、健太郎さんは左側の路肩に人影を見付けたという。

黒い人影は、健太郎さんの自動車に向かって頭を下げたようだった。

それを見た健太郎さんは、ちょうど他の自動車も途切れていたので、人影のそばに停車した。用事があって呼んでいるのかと思ったということもあるが、その人影に不思議と惹きつけられるものがあったからだ。

しかし、突然、助手席にいた妻が短い悲鳴を上げた。窓の外を見た健太郎さんも息が詰まるほど驚いた。

左側に立っていた人影は、髪もなく、目もなく、鼻もなく……近くで見てもただの影だったのだ。

二人が声も出せずにいると、その影はもう一度丁寧に頭を下げたように見えた。まるでお辞儀をしているようだった。

健太郎さんは影から逃げるために急いで自動車を発進させた。妻は「あれはいったい何なの?」と泣きそうな声を発した。

最後のトンネルを出ると、悪天候が嘘のように回復していた。外は夏の夕方らしい明るさに戻っていた。

自動車はすぐに小原慈母観音に到着した。二人は予定通りお参りをした。先ほどの影が交通事故の犠牲者に関係があるのかもしれないと思ったからだ。

後日、この一件を健太郎さんは振り返った。気持ちを落ち着かせて考えてみると、影は頭を下げていた。まるで二人にお礼するかのように。悪意はなかったように思われる。

もしかすると、行きには素通りしてしまったが、帰りには供養のために手を合わせようと言ったことを影に感謝されたのだろうか。

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