すかし橋の女 五大堂(宮城郡松島町) | コワイハナシ47

すかし橋の女 五大堂(宮城郡松島町)

松島の瑞巌寺に所属する五大堂は、伊達政宗公が建てた東北地方最古の桃山建築だ。秘仏・五大明王が納められていて、三十三年に一度開帳されるという。

そんな五大堂には、「すかし橋」と呼ばれる海の上に架かる二本の橋を渡って向かう。橋の欄干は朱塗り。橋板は梯子状に渡された横板で造られていて、横板と横板の隙間からは海面が見える。隙間の広さは落下する心配はない程度だが、足元に海が見えるため、参拝者は自然と心が引き締まる。

今から三十数年前、悟さんは当時付き合っていた彼女と二人ですかし橋を渡ったことがある。

すかし橋は渡るとき、カップルならば自然と互いの手を握り合ってしまうので、縁結びの橋ともいわれている。悟さん達も仲良く手をつないで渡ったそうだ。

その頃、お互いに将来のことを考え始めていた二人は、もう一年交際して結婚するかどうかを決めようと話し合った。

そして、一年後の夕刻、本当にこの人で良いのか、お互いに心を引き締めて、すかし橋を渡って決めようと話していたのだった。

だが、悟さんが彼女の心変わりを疑った時から二人の間はぎくしゃくし始めた。じっくりと話し合いたいが、なかなか彼女と連絡が取れない日々が続いた。

今とは違い、スマホもSNSもない時代のこと。しかも、悟さんは社員寮で生活しており、電話は管理人が取り次ぐ仕組みだった。一方の彼女は実家暮らしで両親が受話器を取る場合もあるため、気軽に電話をかけることができなかった。

やはり彼女の心は自分から離れてしまったのだろうか。そう悟さんが悩んでいるうちに、約束の日が近づいてきた。

悟さんは、約束の日に一人ですかし橋へやって来た。

そこに彼女の姿はなかった。だが、夕刻までまだ時間がある。悟さんは橋のたもとで待っていた。しかし、彼女は現れない。

やがて日が沈もうとしていた。そろそろ五大堂への門も閉ざされるはずだ。

悟さんは、残りわずかな時間に望みをかけて彼女を待った。もし来てくれたなら、改めて彼女と話し合いたい。

しかし、時は無情にも過ぎた。悟さんは一人ですかし橋を渡ることにした。渡りながら、彼女への気持ちに区切りをつけようと考えたのだ。

悟さんは一本目のすかし橋を渡った。そして、渡り切ったところで、名残惜しそうに振り返った。

すると、一本目の橋の向こう側に人の姿が見えたのだ。長い髪のその人は彼女かもしれない。

女性は渡るかどうか思い悩むように橋のたもとに佇んで、すかし橋の隙間から下の海を見つめているようだった。辺りは薄暗い上に、女性は俯いているので彼女かどうかは分からない。

悟さんは橋を引き返し、女性に声を掛けようと一歩を踏み出した時だった。その女性も同じように足を踏み出した。しかし、足の先から徐々に霞となって、すかし橋の隙間に吸い込まれていったのだ。

悟さんはその場に立ちすくんだ。最後の瞬間、まるで断末魔の叫びを上げたかのような女性の表情を、悟さんは見た。悟さんにはその顔が、やはり彼女だったように思えた。

悟さんは、あの女性は自分の想いが産み出した幻影かもしれないという。だが、この日を境に彼女との恋愛にピリオドを打つという決断を下したことだけは確かだった。

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