雪おろし (新潟県妙高市) | コワイハナシ47

雪おろし (新潟県妙高市)

妙高市に住む聡さんは、八十歳を超えても元気に一人暮らしをしていた。

妙高市は新潟県の南西部に位置し、冬場は積雪が三メートルを超えることもある。そのため、特別豪雪地帯に指定されている地域である。

降り積もった雪は固くなると、降る雪の何倍もの重さになる。屋根の上に積もった雪を下ろさなければ、家が壊れたり、落雪で通行人が怪我をすることがある。そのため、豪雪地帯の雪下ろしはとても重要な作業だという。

だが、雪下ろしは危険な作業でもある。屋根から足を滑らせて転落し、さらに屋根から落ちてきた雪に埋まって死亡するケースもあるのだ。

事故防止のためには、「命綱をつけ、ヘルメットを被る」「すべりにくい靴を履く」「梯子はしごを必ず屋根に固定し、転落を防ぐ」などが挙げられる。その中でも特に大切なのが、近所の人に声をかけて二人以上で雪下ろしを行なうことだ。なぜなら、一人に何かあった時、もう一人がすぐに救出活動が行えるからだ。

だが、聡さんにはせっかちなところがあるようで、さっさと一人で済ませようと、つい考えてしまうそうだ。

そんな聡さんの性格を心配しているのが、東京に住む一人娘と孫の希さんだ。聡さんは二人から「何かあった時すぐに連絡がとれるように、携帯電話を持って」と口をすっぱくして言われていた。

その日、聡さんの家では雪の重みで襖ふすまが開けにくくなってしまった。そのため、聡さんは一人で雪下ろしをすることにした。

雪は止んで、外は良い天気だった。

聡さんが雪下ろしのために滑りにくい靴を履いて、外に出ようとした。すると、家の中から声が聞こえた。

「一人じゃダメ」

希さんの声に似ていると聡さんは思った。

だが、希さんは今頃、東京の高校で勉強中だ。一人で雪下ろしするのは良くないと分かっているので、後ろめたさが聞かせた空耳だろうと、聡さんは考えた。

しかし、希さんの声かもと思ったおかげで、聡さんは希さんから携帯電話を持つように言われていたことを思い出した。聡さんは携帯電話をポケットに入れて外へ出た。

その十数分後、運悪く事故が起こってしまった。聡さんは屋根の雪と一緒に滑り落ち、頭を打った。そして意識がもうろうとしたまま、屋根からの落雪ですっぽりと埋もれてしまったのだ。

すぐに見つけられなければ、呼吸もできなくなるだろう。だが、近所の人は誰も気付かず、通りがかる人もいなかった。

聡さんは、薄れゆく意識の下で、また希さんの声を聞いたそうだ。それは「しっかりして」と必死に呼びかける声だった。聡さんは、冷たい雪に包まれながら、希さんとはもう会えないのかと胸が締め付けられる思いがしたという。

ところが、聡さんは近所の人によって助け出され、命を取り留めた。それどころか、軽いケガだけで済んだのだ。

後で聡さんが近所の人から聞いた話はこうだ。

ちょうど外へ出ていた近所の人が、聡さんの家の軒先にできた雪の山の側に、しゃがみこんでいる少女の姿を見たそうだ。近所の人は、学校がある時間帯なのに、なぜ少女がいるのだろうかと思って聡さんの家まで来てみると、その少女はいなくなっていた。

その時、雪の山から携帯電話の着信音が聞こえた。そのため、もしや誰かが下敷きになったのではと思い、雪を掘り返したそうだ。すると、雪で埋まった聡さんが出てきた。

一見、めでたく一件落着したかのように思える話だが、実は不幸が起きていたのだ。

聡さんが事故に遭った日の朝、東京にいる希さんが「おじいちゃん、一人で雪下ろしをするかもしれない」と心配していたそうだ。

希さんは「昼休みにおじいちゃんに電話してみる」と言って、高校へ出かけた。

しかし希さんは登校途中、交通事故に遭った。しかも、聡さんが希さんの声を聞いた頃は手術中だったという。

ということは、近所の人が見た少女というのは、祖父思いの希さんの生霊だったのかもしれない。

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