深夜の宅配便(東京都) | コワイハナシ47

深夜の宅配便(東京都)

フリーライターのUさんの話である。

彼女は都内のマンションでひとり暮らしをしている。職業柄、部屋は仕事場を兼ねているから、遅い時間まで原稿を書くことが多い。

その夜、Uさんがパソコンにむかっていると、玄関のチャイムが鳴った。

マンションはオートロックで、いきなり玄関までくるのは不可能だ。

まずエントランスのドアホンで住人を呼びだし、ロビーの扉を開けてもらわないと建物には入れない。にもかかわらず、玄関のチャイムが鳴っている。

「ピンポーンピンポーンって、うるさいんです」

昼間なら、ほかの住人がロビーの扉を開けた隙に営業や勧誘のたぐいがまぎれこむこともあるが、夜には経験がない。

恐る恐るドアホンのテレビ画面を覗くと、帽子に制服の男が廊下に立っていた。

見慣れた宅配便の制服である。

「なんだあ。宅配便かと思ったんですけど──」

壁の時計を見たら、十一時五十五分だった。

荷物がくる予定はないし、宅配便の配達時間は夜の九時までだ。

そもそも制服の男は荷物を持っていない。

不審に思って応答しないでいたら、ドアホンのテレビ画面が消灯した。

すこしして点灯してみると、玄関の前には誰もおらず、暗い廊下が映っている。ほんとうに宅配便なら不在連絡票を投函していくはずだが、それもない。

「いまのは、誰だったんだろう」

Uさんは不気味に思ったが、それ以来、おなじ現象がたびたび起こるようになった。

夜の十一時五十五分くらいになると、玄関のチャイムが鳴る。ドアホンのテレビ画面には以前とおなじ宅配便の制服を着た男が映っている。

帽子のせいで顔はわからないが、テレビ画面が消灯すると同時に姿を消す。去っていく足音がしないので、生身の人間ではないと気づいた。

マンションの住人とは交流がないから、あの男がほかの部屋も訪れているのかどうかわからない。もし自分の部屋にだけやってくるのだとしたら、それはそれで恐ろしい。

いずれにせよ、夜の十二時前になると仕事が手につかない。

Uさんはその時間は部屋をでて、近所のファミレスで仕事をするようになったが、それも不便でストレスが溜まる。

「だからって管理会社には相談できないし、友だちや取引先にいったら頭が変だと思われるだろうし──」

Uさんは思いあまって実家に電話した。Uさんの実家は地方にあって、両親は一戸建てに住んでいる。電話にでた母親にいままでのことを打ち明けると、

「母はびっくりした声で、えッ、あんたんとこにもくるの、って」

実家にも夜中に宅配便がくるという。

あの男とおなじ制服だが、あらわれる時刻は決まって午前二時である。

Uさんのマンションと同様、玄関のチャイムとともにドアホンのモニターが点灯し、宅配便の制服を着た男が映る。父親がすぐに飛びだしていくが、玄関のドアを開けると男の姿はなく、宅配便らしき車も見あたらない。

はじめ両親は誰かのいたずらだと思った。

だが実家では番犬として、庭で大型犬を飼っている。気性が荒い犬で不審者がいたら必ず吠えるのに、午前二時のチャイムのときは犬小屋に入ったまま沈黙している。

「それで、人間じゃないってわかったみたいです」

いつからチャイムが鳴りはじめたのか母親に訊いてみると、Uさんがはじめてあの男を見たのとおなじ時期だった。

Uさんの部屋でも実家でも、いまだにチャイムが鳴って宅配便の男があらわれる。

「でも時間がずれてるってことは、もしかしたらうちに寄ったあと、実家にいってるのかも。そう考えたら、よけいに怖くって──」

あの男はなにを配達にきてるんでしょう、とUさんはいった。

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