郷愁 イムジン川(神奈川県横浜市) | コワイハナシ47

郷愁 イムジン川(神奈川県横浜市)

ニューヨークに住むクリスさんというアメリカ人男性の話である。

クリスさんは三ヶ月に一度ほど仕事で来日するのだという。その度、横浜のある決まったホテルに宿泊するそうだ。名前をいえば大抵のひとは知っているような老舗ホテルである。

値段の割にサービスは行き届いているし、なにより清潔なのが気に入っていた。同じ料金で比較した場合、アメリカのそれとは比べものにならない。

繁華街にも程近く、商談先へもタクシーで二十分ほどなので、定宿にしていたのだった。

そのホテルが奇妙でね、とクリスさん。

「ポルターガイスト現象が起きるとか、幽霊が出るとかではないんだ。夜、寝ると必ず夢を見るんだけれど──」

それが毎回同じような内容だという。

夢のなかで、なぜか彼はコリアンになっている。朝鮮語を完全に理解し、流暢に話したり書いたりしている。実際の彼は朝鮮半島など行ったこともなければ、興味を持ったこともない。コリアンの知人などひとりもいないし、仕事上の付き合いもない。ハングル文字などまったく読み書きもできないそうだ。そして朝起きると夢の内容を殆ど忘れている。あれほどすらすらと話していた朝鮮語はひと言も覚えていない。

もっとも夢の話である。そんな意味不明な内容だからといって、それほど奇妙なことに私には思えなかったのだが──。

「これは横浜のホテルではないんだけど──」

ニューヨークの自宅でテレビを見ていたとき、画面にある河川の映像が流れた。

ナレーションもテロップも入らないので、どこの何という川かまったくわからない。風景から察すると、アメリカでもヨーロッパでもないようだった。悠々たる川の流れを見つめていたクリスさんの眼に、ふと知らず涙が浮かんだ。なぜだかわからないが、強い郷愁のようなものに駆られていた。

なんだ、これは──。

「故郷のルイジアナにさえ、さほど帰りたいと思ったことはないのに」

しばらくすると画面にテロップが表示された。

「イムジン川、韓国と北朝鮮を分断する悲劇の川」そう書かれていたという。

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